金平糖
※二人とも気づいてない両想いです。
ある日の昼下がり、土方は自分の眼前にある書類の山に目眩を覚えていた。
「終わらねぇ…」
かれこれ二日彼は自室に籠り、いつ終わるかも分からない仕事をこなす。
幕府からの手紙を読んでは返事を書き、読んでは返事を書きを繰り返していた――。
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(あぁ…身体中痛ぇや…)
一旦筆を置き肩をまわす。ゴキリと肩と首が凝り固まった音が脳内に響く。
「少し休憩するか…」
屯所内を散歩でもしようと思い部屋から出ようとしたちょうどその時、まだ手をかけていないはずの襖がスッと開いた。
「あれ?土方さんどこか出掛けるんですか?」
開いた襖から顔を覗かせたのは、ここ数日姿を見せることのなかった沖田の姿だった。
「あ、あぁ…少し散歩しようと思ってな」
久々の顔合わせに戸惑いながらもなんとか答え、沖田は数秒キョトンとすると、すぐにいつもの笑みを浮かべた。
「じゃあ、僕も御一緒してもよろしいですか?」
沖田と二人肩を並べ、宛もなく屯所内を練り歩く。
二日間ほとんど触れることのなかった外の空気に、おもわず大きく息を吸い込んだ。
ホゥと息を吐くと隣から小さな笑い声が聞こえる。
無意識にしでかした自分の失態に気づいた。
沖田のことだ。先程の自分の行動は確実にいじられるはずだ。そう考えると自然と顔に熱が集中するのが分かる。
しかし、返ってきた反応は予想外なもので。
「よかった、元気そうで」
一瞬なんのことだか理解出来なかった。しかし、どこかホッとしたような目を見てすぐに分かった。
「……心配してくれたのか」
「まぁ…さすがに少しはね…」
確信にも近い疑問を口にしたが、少し前の言葉とはうってかわり、沖田は味気ない返事を返しそっぽを向いてしまった。
風に揺れた髪の隙間から覗いた耳は、ほんのりと赤くなっている。
「僕があなたを心配することって、そんなに珍しいですか?」
「いや、そういうわけじゃ…」
少しブスくれてしまった沖田にあわてて否定したが、機嫌を損ねてしまったようだった。
それからというもの、すっかりヘソを曲げてしまったのかこっちを見ようともしない。
なんと声をかけたらいいのかも分からず、仕方なくこちらも黙っていることにした。
屯所内をぐるりと一周し、もうすぐで自室に着く。息抜きついでの散歩も終盤にさしかかっていた。
(そういえばこいつ、一体何の用でオレのとこに来たんだ?)
そろそろこっちが折れてしまおうか。
ちょうど頭に浮かんだ疑問を口にしようとしたとき―――
「土方さん」
自分より先に口を開いたのは、ずっとだんまりを決め込んでいた沖田だった。
「…あのですね…そのー…」
沖田にしては珍しく歯切れが悪く、視線は空をさまよわせていた。
いまから沖田の言わんとすることが自分の持っていた疑問に関係するということだとは、なんなく察しがついた。
あと数歩で自室に着いてしまうというところで、沖田はぴたりと歩みを止めた。
それに気づき振り返ると、顔を真っ赤にした沖田がこちらを睨んだ。
「さっき近藤さんにこんぺいとうを貰ったんで一緒に食べませんか!?」
「っ!!」
驚いた。
あの総司がこんなことを言うなんて。
今自分の目の前にいるのは、いつもの飄々とした沖田ではなく、恥ずかしそうに自分をお茶に誘う“総司”の姿。
あまりにも赤いその顔に、つい、つられてしまった。
「……オレの部屋で待ってろ。茶を煎れてきてやる」
おそらく赤くなっているであろう自分の顔を隠すように勝手場へと向かう。
二人分の茶を持って部屋を開けた先にあるのは
こんぺいとうのように甘い時間か
それとも
とろけるようなお前の笑顔か。
fin.
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