物語の終わり、2人のはじまり。〜side〜


松本が5日振りに瀞霊廷に現れた時、俺は少し驚いた。
もう、戻ってこないと思っていたからだ。

「松本…。」
「心配おかけして、ほんとうに申し訳ございませんでした。」
深々と頭を下げる自分の部下の姿に、俺は言葉をかけることすら出来なかった。


あの大戦後、瀞霊廷は混乱の極みにあった。

自分も2日前に、ようやく病床から立ち上がれるようになったくらいだ。


俺が目覚めた時、席官が真っ先に告げたのは、松本の消息が途絶えたという事だ。
今捜索搬が出ているという。


しばらくして、大罪人市丸の姿も無いと聞いた。


2つを関連付けで考える者はなかなかいなかったが、俺は2人は一緒にいるのだろうと直感的に思った。

市丸が松本をさらったのか、松本が市丸を追いかけたのか…。

どちらにせよ、松本はもう戻っては来ないだろう。
ぼんやりする頭で、俺はそう思っていた。


しかし松本は戻ってきた。そして“流魂街の人間”と結婚するのだという。

「誰だ。」と聞いても、
「お答え出来ません。」としか言わない。

ただ、長い付き合いなのだと。
そう言った。



「そうか…。分かった。」
俺はそう答えるしか無かった。
だってそうだろう?

大事な人を守れ無かった俺が、今愛する人を守らんとするあいつに何を言えるんだ。



噂は瞬く間に広まった。

みんな一様に大戦のダメージで疲れ切っている。
瀞霊廷内はどこか殺伐とした雰囲気が漂っていた。

そんな中で着々と転居の支度をする乱菊を、みな訝しがった。

―乱菊さんが戻ってきた!
―どこ行ってたんだよ!?
―結婚するらしいよ…。
―なんでこんな時期に。
―誰だよ誰!?
―流魂街の人らしい。
―嘘だろ!?気は確かかよ。

信じられない物を見るようだった。

副隊長数名や、一部の席官達は、心配し様子を見に来たが、
「心配かけてごめんね?私は大丈夫よ。明日からまたちゃんと仕事に復帰するわ。」
と明るく返され、その笑顔に丸め込まれてしまう。


執務室に駆け込んできた野郎共や、説明を求めてくる上のヤツらにも「そういう事だ。」としか言えなかった。


松本は翌日、出勤してきた。

「隊長、昨日はお騒がせしました。」
松本は笑った。


いままでこいつの笑った顔はたくさん見てきたが、こんなに優しい笑顔を見たことは無かった。




時間と共に落ち着きを取り戻していく中で、松本の事をとやかく言うものはいなくなった。
誰も何も言わないが、一部の人間は悟っていたのかも知れない。
松本が市丸といるという事を。


一度気づいてしまえば、余計何も言えなくなる。
今までの笑顔を思うと、その重さに打ちひしがれるしかない。



相変わらず松本は流魂街から、通ってきている。



どうして市丸が瀞霊廷を裏切ったのか。
どうやって2人が共に暮らすに至ったのか。
ほんとうに2人は一緒にいるのか…。

俺は何も知らない。


だが、あいつは優しく笑っている。

あの戦いは、傷だけを残していったのでは無いのかも知れない。

その不確かな光は俺にはとても眩しく映った。


完治したはずなのに未だ疼く傷跡に手を当て、あいつの笑顔を見る。



その金色の光は、今日も優しくきらめいている。




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