甘美な魔法

「ショコラは、いかが?」
銀色の盆に行儀よく並んだチョコレート。乱菊は少し考えると、艶やかに微笑んだ。

「ありがとう、いただくわ。」


*

ギンは乱菊をエスコートするようにベッドへいざなった。腰かけさせると自分も隣に座る。
「召し上がれ。」
もう一度銀のトレイを差し出した。
「あら、食べさせてはくれないの?」
乱菊はの声はすまし声。ギンはフッと笑うと「これはこれは失礼しました。」と言った。
「どうぞ、お召し上がりください。」
長い指で支えられた、魅力的な光沢をたたえた物体を口に含む。
「美味しいわ。」
「本日は現世の一級品を取り寄せましたから。」
「やだ、ずいぶんと気合いが入っているのね?」
「ホワイトデーですから。」
「それはただの口実じゃなくって?」
「そうかも知れません。」
「あなたも食べたら?」
「いいんですか?」
「そのつもりだったくせに。」
乱菊は口でくわえて、そのまま唇を重ねた。交わったところから、舌を使ってギンの口内に送る。
「どう?美味しい?」
「とっても。」
ただ渡すだけには長過ぎたようだ。回りについた茶色が、汚ならしく、卑猥に光っていた。
「ついているわ。」
お互いに口回りをペロペロと舐めあっていると、それは次第に激しさを増し、いつの間にか濃厚な口付けに変わっていた。角度を変え、貪り合う。こぼれる息はどこまでも甘い。
その情熱のままに雪崩れ込んだベッドの上では、シーツが官能的な波を作っていた。

「ねぇ、ギン…」
「なに?」
「私…とろけちゃいそうよ…」
「溶けてしまい。とろとろになった頃が一番の食べ頃や。チョコレートも…」
胸も首筋も背中も耳も、余すところなく味わい尽くしたギンは、唯一まだ触れていない、最も甘い匂いのする場所に口付けた。

「乱菊も。」

ギンの舌が割れ目をなぞる度、熱に溶けたチョコレートのように、乱菊の秘所からは密が溢れる。
「美味し。」
ギンが顔を上げると、唇が濡れ光っている。その妖艶さに、乱菊は一瞬目が眩みそうになった。
「もっと、ちょうだい。」
「いいわよ、あげる。来て。」

二人はひとつになる。お互いの熱が、さらなる熱を呼び、溶けていく。
荒い息も、掠れた声も、ベッドが軋む音も、すべてはより燃え上がるための燃料になる。

「あぁ…もっ…だめ…!」

限界まで上り詰め、二人はついに弾けた。


*

「激しかったわ…。」
甘い痺れを感じながら、ギンの腕の中で乱菊は呟いた。
「これ、食べたからな。」
ギンは笑いながらベッド脇にあったトレイに手を伸ばした。
チョコレート―
中世ヨーロッパでは、禁断の媚薬とされていた。
甘く美しく、そして危険…まるで男女の夜のようだ。

「なぁ、乱菊。」

チョコレートの魔法で二人は甘く堕ちていく。



“ショコラは、いかが?”


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