「ふぅ〜温まった温まった〜。」
風呂上がりの私は寝間へ入る。すでに自分の分の布団を敷いて寛いでいるギンを見てふと笑みをこぼす。こんな姿、また見れるなんて思っていなかった。なんて普通で…なんて幸せなんだろう。
「なに笑うとんの?」
「ん?ギン年取ったなーって思ってたの。」
「…ひどいなぁ。乱菊かて
「何よ。」
「大人の女性になって、ボクは嬉しいなぁ…。はは」

一睨みすると自分の布団を敷こうとした。



「あー…布団、敷かんでええから。」

「え?」

ギンは胡座をかいて、居心地悪そうに頭を掻いている。
「あ…。」
意味するところが分かって私は少し赤くなった。
ふだんはこんな誘い方しないくせに。

「おいで。」
はっきりとした声が耳に届く。
私はちょっと笑うとギンに後ろから抱き締められるように腰を下ろした。

「ギン、冷たいね。」
もう秋だ。夜になると急激に気温が下がる。家の中にも時折冷たい風が音を連れて入ってくる。ギンの肌はもう湯から出た時の熱は消え、ひんやりとしていた。
「乱菊は暖かいなぁ。」
「私はかいろじゃないわ?」
ギンは「ほんまやね」と笑いながら私を柔らかく包み込んでくれる。触れるところから熱が生まれる。
とくん、とくん
目を閉じれば胸の鼓動が聞こえてくる。ちょっとの緊張とちょっとの期待感。

「乱菊…。」
耳元で響く湿った声。脳にまで届くようでぞくりとする。
「乱菊。」
顔を上げればギンの口づけが降ってくる。一度離れてお互いの瞳を覗きこむ。水色の中には、こちらをみつめる私がいた。

徐々に深くなるのキスに懸命に応えていると不意にギンの手が私の胸に触れる。息が漏れてしまう。
崩れた着物から露出した肩にギンの唇が落ちると舌がゆっくりと這っていく。
ギンの余裕の無い息が私を感じさせる。掠れた声が私の名前を呼ぶ度、私の体は熱くなる。

「ギン、苦しい…。」
体を捻って後ろからの深い深いキスを受け入れている少し無理な体勢がツラくて、私はギンの胸を叩く。
ギンは顔を離しこちらを見ると、ゆっくりと体を横たえさせた。

帯などとうの昔にほどかれている。ギンの目に映っているのは隠すものを奪われた私だけ。

「寒ない?」
「………熱いわ。」
私の回答に満足したのか、ギンは頬を手の甲で撫でてくれた。
手はそのまま耳に首筋に移動し、口づけはさらに深さを増す。

手は降下していき、私はこれから先を想像して恥ずかしさに顔をそらした。

そっと足を開かせるとギンの指が私の中に入ってくる。「あ…」呻きとも悲鳴ともとれない声が漏れる。
動きについて行けず、私は愛する人の名前を呼ぶことしか出来ない。

指が抜かれても、私の息は収まらなかった。

「乱菊、…ええ?」
少し落ち着くのを待ってギンが声をかけてくる。

頷くと額に小さなキスをくれた。
どんな濃厚なキスよりもその唇の柔らさが気持ちを伝える。

ギンを体は受け入れる。腹部の圧迫感に眉を寄せるが、それはすぐに喜びに変わる。
幸せに私の目尻からは涙がつたった。




こんなにもsexが幸せな行為だなんて、ついこの間まで知らなかった。

どんなに触れられても、深く繋がっても、不安で堪らなかった。そこにいるのが本当に“ギン”なのか、それすら確信が持てなくて、ただギンが求める時だけ、私はギンを求めることが許された。何も言ってくれない。何も教えてくれない。そんな中流した涙と、今は違う。

「乱菊…?」
動きが急に止まり、私は我にかえった。
「泣いてる。」
ギンの指が私の涙のあとを拭う。私はその手をとってキスをした。

「ギン、愛してる。」

びっくりした顔をするギンがいとおしくて私は腕を伸ばして顔を胸に抱く。
「なんやいきなり告白されて調子狂うわ。」
「ギンは?」


「愛しとるよ。」

あぁ…この言葉
この言葉を何度願っただろう。

「世界で一番。」

鼻先を合わせて笑いあう。
再び動き出す律動と共に、幸せが溢れ出す。

共に弾け、私の胸にもたれかかってきたギンを受け止めると、目からまた一筋の涙が零れた。

私は今愛する人に抱かれている。

幸せが、溢れ出す。


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