夢と傷跡

夢から覚めると、一瞬自分がどうして泣いているのか分からなかった。

「あぁ…。」
そういえば酷い夢を見たんだった。

断片的だった記憶が繋がってくるのと共に、嫌な汗が流れた。


双極の丘にギンが立っていた。
私以外他には誰もいない。

「ギン…?」

やけに声が大きく響く。
音が全てシャットアウトされた時のように耳なりがする。

ギンは振り返ると、笑った。
こんな顔随分と見ていない。
子供の頃、
一緒に暮らし笑いあっていた頃の顔だ。

「乱菊。」
「ギン!!!」
いつの間にか体は小さくなり声も子供の時のように高くなっている。

「どないしたん?」
ギンは歩み寄って顔を覗いてくる。
ギンは大人のままだ。

「ギン、どうしていなくなったの!?」
私は泣きながら同じ言葉を繰り返していた。


ギンはしゃがんで私を抱きしめ、あやすようによしよしと言っている。


ギンの背中に手を回すと、
ぬめりと嫌な感触がした。

血だ。
臭いが鼻をつく。

「ギ、ン…?」

後ずさりギンを見ると、片腕が千切れ、胸から血を流している。

私は声が出なくなった。


《キミの為。》
《キミの為に僕は死ぬんや。》

頭に直接声が流れ込んでくる。

怖くなって叫ぼうとしたが、喉が張り付いたように声が出ない。


再びギンを見ると、不気味なほど優しく笑っている。







夢の中では泣いていなかったのに、涙が頬に跡をつけている。

気持ち悪い。

ギンが私の為に死んだなんて、分からないじゃない。
あいつは何も残さなかった。
残したのは疑問だけね。


都合のいい解釈なのかしら。
いや、私にとっては苦しみが増えるだけ。



朝から最悪。

昨日はギンと初めて出会った日の夢を見たのに…。

結局昨日も泣いていたのだけれど。



あいつは私が泣かないで済む世界を作ると言った。
意味は分からないが、あんたが一番泣かせているんじゃない…。


泣くのも悔しくて布団を叩いた。

だけど私の思いに反して、布団にはぽつぽつと涙の染みが出来る。




ギンが残してくれたもの。

そうだ、
この痛みもあるじゃない。


この痛みさえ
忘れないように刻み込んでやる。


私は痛いほど、
ぎゅっと体を抱きしめた。




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