繋ぐ




あのとき手を伸ばして届くものだったなら
肩が外れようと腕が千切れようと
掴んだのに
そのYシャツの裾でいい
もう一度触れられたならもう
二度と離さないのに


わたしという少女が彼という少年に出会うということは、それはずっと昔から決まっていて、変えられない運命で、絶対の出来事だった。だから、こんな結末も変えられない運命の一部として認めなければいけないのだろうけど、生憎はいそうですかと全てを受け入れられるほどわたしの環境順応力は高くない。

「俺が嫌いか?」

背中から彼を抱きすくめてそのYシャツに鼻を寄せると、すっかりいつもの柔軟剤のにおいに落ち着かされてしまう。これだ、この香りのせいでわたしは、と眉間にシワがよるほど後悔してはいるけれど彼から離れる理由にはならない。所謂、ジレンマというやつだ

「大っ嫌い。殺してやりたいよ」
「はは。お前に殺されるくらいなら自殺した方がまだ救いがある」
「そう」

ぎゅ、と腕の力を込める。彼は黙ってわたしに身を任せている。まるでぬいぐるみのように大人しいと思ったが、一つ違うのは命のないそれと違い彼が暖かいことだった

「お願い、どこにもいかないで」

自分でも驚くような言葉と声音だった。こんなふうに必死に絞り出したような、今にも泣き出しそうな声が自分に出せたと初めて知る。同時に、わたしはもう二度とこんな声は出さないのだろうなと思った

「最初で最後の我が儘だから、なんて続けるなよ。鳥肌がたつ」
「そんな少女漫画の王道みたいな懇願はしない」

また、強く。想いをそのまま変換してるみたいに腕の力が強まる

「どこにも、いかないで」

いつの間にか涙が出ていたようで彼のYシャツが濡れていることがわかった。気付けば嗚咽まで込み上げてくる。肩が上下し呼吸が乱れはじめ、絶対に泣いてやらないと固く心のなかでした誓いはこうもあっさり破れてしまった。

彼がわたしを引き離したかと思うと、正面で抱きしめられ、その大きな腕のなかにすっぽり。暖かい。心地よい心音と柔軟剤の香りが相俟ってわたしを落ち着かせる。するとまた引き離されたかと思うと、唇に触れたのはもちろん、彼のそれで。

「どこにもいかねーよ」

嘘だとわかっていながらその言葉に安心してしまうわたしは、本当に愚か




繋ぎ止められない
神様どうしてあなたは、与えたものを奪うのですか

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