確証






汗が滴る。コンクリートの上に染みを作る。背後で発車した電車が轟音と共に過ぎ去っていく。生温い風が吹いてスカートが舞い上がる。そしてすぐに定位置まで下がる。
どうにかして涼もうと道の端に寄って、極僅かな木々の陰に入ってみても、暑さにほとんどかわりはなかった。顎まで垂れてくる汗を何度拭っても、次から次へとやってくる塩辛いそれ。蝉は頭上で大合唱。ひたすらに、五月蝿い。汗腺と聴覚と視覚しか今のわたしには無いのだろうかと思うほどに。
真っ青すぎる空には雲一つない。去年もこんな日があったなと思い出す。それは思い出せても、その頃のわたしのことは何一つ思い出せないのが哀しい。確かにわたしはわたしで、あの頃のわたしと同じものであるのに、時々わたしはぽっかりと空いていることがある。こんな暑い日に今までのわたしなら、何を思っていたんだろうか。
少し歩いたところで海が見えてきた。日差しに反射して眩しいくらい輝いている。ああやっぱり、いつかもこの景色をみたことがある。どうやって、誰と、どうして来たのかはもう覚えていないのに。

(太陽が酷く照り付けていた。この夏一番の暑さだと聞いた。裸足で砂を踏むととにかく熱かった。悲鳴をあげながら足を引っ込めると、その様子を笑われた。サンダルに足を突っ込んで、波と浜の境界をひたすら歩いた。ぴちゃぴちゃと跳ねて、足に触れるしぶきが心地よくて、途中でサンダルを脱いだ。彼がそれを拾ってくれた。しばらくして振り返ると、ふたつの大小の足跡が時折混じりあうようにして続いていた)

義務と言っていいほど海に来なくてはいけない気がした。夏になったら、必ず来なくてはいけないのだと。まるで何かの呪いのように。
サンダルをはいたまま、波と浜の境界をひたすら歩く。ぴちゃぴちゃと跳ねて、足に触れるしぶきが心地よくて、途中でサンダルを脱いだ。それからまた歩いて、しばらくして振り返ると、そこには一つの小さい足跡とわたしのサンダルだけだった



確証
忘れたはずの記憶

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