着信
声がききたくなったから電話する
そのくらい自分の心に忠実で、
かつ、行動力があればいいのに
そんなことを考えて今日も受話器は握れない
ケータイを握り締めて早49分。
あと少しで一時間というところまできてわたしはまだ電話をかけられていない。
電話番号は既にケータイのディスプレイに表示されている。
真ん中のボタンを押すだけで、彼のケータイにかかるのだ。
たったそれだけのこと。
指を動かして、真ん中のボタンを押すだけのこと。
そんな動作が、いつもやっていることが、なぜ「彼」のこととなるとできなくなってしまうんだろうか。
心臓がうるさい。ケータイを握り締めてからずっとだ。
もし、電話に出たら?
ケータイなんだもん、彼以外の人は出ない。
言葉を、なにを、伝えよう。
ずっと頭の中でもやもやしてきたことを、思い切って口に出してみようか。
でもそれで嫌われるのが怖い。
そんなことはないだろうとは思うけど、やっぱり。
声がききたいんだ。
単純にそれだけなんだ。
あなたの声が
そろそろ疲れてきた。
自分と自分の戦いに白旗をあげるときがきたようだ。
(だめだ。あとにしよう)
そう思いきってケータイを閉じる。
あと、なんては言ってみるけどいつまでもわたしはこんな調子なんだろう。
だから、こんなに
♪〜♪♪
ケータイの着メロが鳴る。
たった今ケータイを閉じたばかりなのにタイミングが悪いなあ、
そんなことを考えながらケータイを開いた。
多分友達だろう。そんなことを考えてディスプレイを覗いたら
びっくりしすぎて声を失った。
彼からの着信
思わず二度見したよ、
(て、てれぱしーかも)
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