その人

寝ていたら、誰かに頭を叩いて起こされた
叩いた、というか、頭に2回ほど触られた感じ

それがとても不快で手をふりはらった
せっかくいい夢の途中だったのに、こいつは

(誰よ)

間もなくして、またぽんぽん、と頭を叩かれた
さっきよりは優しかったけど
逆にそれがわたしをいらつかせた

(起きないのに)

瞼がとても重い
こんなに眠いと感じたのは多分
今日がはじめてなんじゃないか

だから、今どんなことをされても
わたしは寝る以外の行動はしたくないのだ
断固として。

ようやく諦めたのか
わたしを叩く誰かは、しばらく何もしてこなかった

音も何も感じない
昼寝をするには丁度いい


ようやくからだがふわふわ、いい眠りにつけそうだったとき
誰かがまたわたしの頭をさわる
今回は、叩かなくて、撫でた

(なんなのこいつ)

寝てるひとの髪の毛とか肌に
無断で触ってくるって、セクハラよ

(やめてほしい)

もやもやと頭の中で考えていた
けれど口に出す気にはなれず

いや、それよりも
その手があまりに優しくて
あたたかくて
なのに苦しくて

子供のときにお母さんが連れてきた
知らない男の人に頭を撫でられたときのような

まるで深く透通った湖のなかに沈んでいくような

からだの芯にヨーグルトをいれられていくような

そんな感覚にみまわれた
要するに、よくわからない




それからわたしは目を覚ました。
夢の中で、現実と確信していた時に
そこから「醒める」というのは
とても奇妙なことだった

しばらく頭がまわらず、
窓の外の風景に目も暮れず、
夢のような現実のような
時間軸もよくわからないさっきの現象を
必死に自分のなかで繰返していた
何度も何度も、
綻びがなくなるまで、何度も


気が付いたらもう外は夕暮れ
昼寝のつもりが夕寝になってしまっていた。


一体誰だったんだろう
わたしの髪をなでていたのは

すごく懐かしいのに不安で、
だけどすごく心地よくて


もう二度と同じ夢は見られない。
知っていながら、それでもわたしは
もう一度ベッドに横にならざるを得なかった



その人、姿を持たず
(ひどく部屋が広く感じた)


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