拍手お礼【先輩シリーズ:英】


俺が生徒会長になったのは、権力を持ちたいからだとか学園を掌握したいからだとか先生たちの心象を良くしたいからだとかそういう風に言われているらしい。そういう理由がないわけじゃあない。人の下に居ることに耐えられないなら、てっぺんまで上り詰めるしかない。けれども決してそれだけじゃあないということは、きっと俺だけしか知らないであろう。


俺は、先輩の後を追いかけているだけの馬鹿な後輩なのだ。


先輩は、俺が一年の時の生徒会長だった。
抜群の求心力と指導力で采配を揮った人で、当時の学校は完全に彼女の支配下だった。入学して間もない俺にとってはそれが気に食わなかった。俺はそのとき暴力や策謀から足を洗ったばかりで、服装や行動を正したところでまだ自分の内面的な凶暴さとは完全におさらばできていなかった。

嫉妬もあったと思う。

それまで恐怖でしか人を縛りつけられてこなかった自分と、信頼を持って生徒に好かれる先輩の姿はまるで反対だった。
だから担任の教師に頼まれた用事で生徒会室を訪れた際に、生徒会長のデスクで仕事に当たる彼女を見て俺は言ったのだ。


お山の大将してる気分はどうだよ。


まるで陳腐な罵りだった。俺もすぐさまその失敗には気付いたが、まぁいいかと思うことにした。普段謗りを受け慣れていない人間はその程度の言葉で激昂すると知っていたからだ。
彼女は突然投げかけられた言葉にしばしきょとんとしていたが、ややあってにやりと頬を緩めた。それがやたら上機嫌だったので俺は驚いた。

「なかなかの気分だよ。アーサー・カークランド君」

何で名前を、というと「一年生の名簿には目を通しているし、それが学級委員なら真っ先に覚える」と平然と答えた。

まさしく私はお山の大将だろうね。そう生徒会長は言った。

「けれども私はたとえそれがどんな小さな山であろうと、自分の属するコミュニティの中で誰かの下に甘んじることに耐えられないんだよ。いかにも、私は強欲で傲慢だ。私のものが誰かに蹂躙されることが許せない。だから保護する。私の下にいるのならば加護を与えるし、脅威からは守り、緩い範囲での我ままも許そう。私は自分の手のひらの上のものには優しいから。トップのみが持つことのできる余裕というものを知っているかな?私はそれを愛している。君と私は似ているねアーサー・カークランド。君の持つ苛立ちは私が一年の時に感じていたそれと同じものだ」

彼女は不敵に笑った。

「誰かを見上げるのが嫌なら、ここまでおいでよ」

それから俺は一年にして生徒会入りし、先輩を蹴落とすのだと嘯いて何かと彼女に突っかかった。俺は素直でなかったけれど先輩はそれを笑って許したし、生意気な口はきいても俺は先輩の下にいることが嫌ではなかった。
けれども先輩はあっという間に卒業してこの小さな箱庭を離れていった。
去り際に俺は何も言えず、先輩も朗らかに笑うだけだった。そこに青春と呼ばれるような甘酸っぱいできごとなどない。先輩は生徒会長で、俺は数居る生徒の中のひとりだった。

置いて行かれた俺はこの学園の中で、いつも先輩の影を追っている。

先輩の居た場所に誰かがいるのが許せずに生徒会長になった。それは俺のプライドを満足させるものだった。だけれど根本的な欠乏を、俺は癒すことができない。いつでも視線が探すのだ。先輩の存在を。素直じゃない俺は、いまだにここを離れることもできずに。




---

拍手ありがとうございました。
コメントありましたらお気軽に。レスはmemoにて


戻る
あきゅろす。
リゼ