愛の矢印 3
水無月と雖も、雨上がりの夜はまだ冷える。薄い寝衣だけでは寒い筈なのに、組頭を想うだけで身体が火照ってどうしようもない。

タソガレドキ城内にあるこの離れ家は、組頭専用のものだ。組頭は中々家に帰ることはないが、女中が掃除をしていくので目立った汚れはない。

以前は私と共に朝まで過ごす日が週の半分を占めていたけれど――、今はまた別の者がその役割を担っているのだろうか。それを考えると胸がちくりと痛んだ。

――私に胸を痛める権利など、ありはしないのに……。

先ほど自分で敷いた布団を、静かに握り締めた。

その時、蝋燭の火が揺れた。


「待たせたね」


静かに障子戸を開けて組頭が部屋に入る。


「いえ……」


前はもう少し気の利いた言葉を言えた筈なのに。緊張で言葉が思い浮かばない。

濡れている組頭の髪が首筋に張り付いていて色っぽい。

私は立ち上がり、組頭の首に掛けられている手拭いで鴉の濡れ羽色をしたその髪を拭いた。

組頭は私の手を掴んでそれを制す。


「……風邪を引いてしまいます」

「大丈夫、弾が温めてくれるから」


私は驚きで目を見開き、組頭を見上げた。

――今まで甘い言葉を囁く事など、一度だって無かったのに。

組頭のぎらついた鋭い視線に射抜かれて、火照りが酷くなる。

組頭は掴んだ私の手を引き寄せて、一年半振りに唇を重ねた。






***






「――目を、見て」

「あ、……あぁっ!、……んぅっ――はぃっ……」


組頭が最中に声を掛けてくることなんて初めてのことで、頭が混乱する。

組頭が望むのならばと顔を上げて目を見る。満足そうに笑うと私の手に指を絡めて身動きを封じた。

――私の中にある組頭のそれが、また一段と硬さを持った。


「ひっ……ゃ、あっ!――くみがし、らっ……」


組頭の律動が止まる。

愛されているのかと、勘違いしてしまいそうになるくらい、慈しむように優しく触れるから。

つい、呼んでしまった。

そんな事など今まで一度も無かったから、驚いているのかもしれない。道具になりきれない私に失望しているかもしれない。そんな考えが頭を過ぎった。


「……ねぇ」

「はぁっ、……はっ、はい」


辛うじて返事をする。

目に涙が溜まって、組頭の表情がよく見えない。


「――雑渡さん、て呼んでくれない?」

「……雑、渡さん?――っ!!あっ!!」


組頭は私が名前を呼んだ瞬間、激しく腰を突き上げた。

その衝撃で溜まっていた涙が零れ落ちた。

視界が一気に戻る。


「ひゃっあっ!!……ぅん!!ぁ、ざっ、とさんっ……、雑渡さん!!」


その時の組頭があまりにも切ない表情だったから――。




私はその時の勘違いをしていた。




――愛されているのは私なんだと……。








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あとがきという名の言い訳

今私が脳内メーカーをやったら半分以上雑弾なんじゃないかというほど、この二人のことを考えています。
伊作さんも入ってるので三人ですね。
……残りの半分は土井先生です。
そんなことは置いといて。

五条さんは幸薄そうですよね。幸薄い人好きです。
五条さんに酷いことしたくてごめんなさい。
組頭に酷いことさせたくてごめんなさい。
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