愛の矢印
かれこれもう一年くらいになるだろうか――。

最後に組頭に抱かれた日も、雨がしとしと降る夏に入る前のこんな日であったと思い出す。

もともと他人より色の仕事を引き受ける事が多かった私を、組頭は夜の相手に誘った。ただの性欲処理に情を抱かれても困るからだろう。組頭が私を抱くのは、私が性の道具になり切れると思っているからだ。あの人の期待に応える為に、私は自分の気持ちを殺した。

あの人の行為は、自らの欲に忠実で……。黙々と、ただの作業の様に声も掛けない。私は一人、喘ぐ。組頭は自分が気持ち良くなる様に動いているだけなのだろうが、元々の身体の相性が良いのか、はたまた組頭の技術が高いのか、私は簡単に快楽に溺れてしまう。色事には慣れている筈なのに――。


「弾、飯行こう!」

「え……あぁ、うん」

「何をぼーっとしてるんだ?」

「いや、何でもないよ。行こう」


腰掛けていた縁側から立ち上がり、椎良と反屋の後に続いて歩く。

――そうだ。あれからもう一年経つ。組頭はとっくの昔に忘れている、私の事なんて。

組頭が望む道具になると、抱かれる時にそう決めたのだからと今一度自分に言い聞かせて拳を握った。


「あ、組頭!」


椎良の声にぎくりと反応してしまう。

……タイミングが悪過ぎる。


「今日のお昼何でしたか?」

「鯖の味噌煮だった。美味しかったよ」


鯖の味噌煮に燥ぐ二人を余所に、胸が痛くて平静を装うことで精一杯だった。

目を合わせることすら、儘ならないなんて……。


「弾は鯖の味噌煮、好きじゃなかった?」

「はい……好き、です」

「良かったじゃない」


組頭に向かって好きという言葉を発することにすら緊張してしまう。ばくばくと心臓の音が外に漏れてしまいそうだ。

ぽん、と左肩に手が置かれる。

思わず目を見開いて咄嗟に顔を上げると、少し高い位置にある組頭の視線とかち合った。

――どきりと心臓が跳ねる。

何事も無かったかの様に組頭は廊下を通り過ぎて行った。


「……弾、お前本当にどうしたんだよ?」

「そうだよ。今日、何か変だ」

「……ごめん。ちょっと具合が悪いから、二人は先に行ってて」


逃げる様に来た道を戻った。

背中で二人が心配してくれる声が聞こえたけど、振り向くことが出来なかった。顔が熱い。

――……どうして?何で今更?

左肩に手を置くのは、組頭と決めた呼び出しの合図で……、一年振りに組頭が肩に触れた瞬間、身体の芯が疼いた。

角を曲がった瞬間廊下にしゃがみ込む。

――どうしよう。こんなにも、こんなにも嬉しいなんて。道具の振りは、もう出来る自信がないのに……。

己の身体が、あなたの望む道具になれば良いのに。






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あとがきという名の言い訳

へびいちご様
いかがでしたでしょうか?!←勝手に書いておきながら
へびいちご様の文章の足元にも及ばない駄文で申し訳ございません!!
さくっと読めて分かりやすくそして萌える、そんな素晴らしい文をお書きになるへびいちご様に見せられる様なものではないのですが……。
いやー嬉しくてですね、本当にこの雑→伊、弾→雑前提の雑弾という何とも複雑なカップリングの良さをあの四コマごときで理解して下さるなんて!!
へびいちご様の読解力は神の領域です。
実はへびいちご様と共有←???している相互サイトの管理人様とこのカプの萌え談議で盛り上がったのですよ!!
なので書けて嬉しかったです。
へびいちご様にはとても感謝しております。
漫画で描こうとは思ってるのですが、画力が追いつかないので←
一部漫画、一部小説という謎な更新方法でこのカプを掘り下げていこうと勝手に思ってます 笑
へびいちご様のサイト大好きですので、これからもひっそりと通わせて下さい!
本当にありがとうございました!
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