うたかたの。【7】
「第7宇宙・・・地球・・・、あった。これだな。」
「あっ!!ありがとうございます!ザマス様!!」
ザマスはあっという間に萃華が探していた本を見つけ出し、萃華に手渡した。
「その星に、何かあるのか?」
「え?」
書庫にある椅子に腰掛けたザマスは、珍しく萃華に質問を投げかける。
「えと、先ほど、第7宇宙の界王神様から教えていただいたのです。私の風貌は、この星の住人に近しいと・・・。なので、この星について知る事で、私の生前の記憶を呼び覚ます刺激になるんじゃないかと思ったのです。」
「そうか。」
ザマスは萃華の話を静かに聞きながら、地球についての本のページをめくり、目を通す。
「確かに近いかもしれないな。」
本に載っている写真と萃華を比較するように交互に見つめるザマス。
ザマスに見つめられ、萃華は照れくさくなって視線を落とした。
「しかし、この星の人間は、他の星の人間と比べて様々な欲を持ち合わせている危険な生き物だ。」
「・・・そうなのですか・・・?」
ザマスはコクリと頷き、本のある部分を指差す。
そこには様々な争い、事件、戦争について記載されており、悲劇的で悲しい写真が多く載っていた。
その写真を見つめ、眉間にしわを寄せるザマスを、萃華は静かに見つめる。
(・・・また、この顔だ。私を初めて見たときの顔・・・。)
悲しんでいるような、怒りを堪えているような・・・
・・・絶望しているような、そんな顔・・・。
(この顔を初めて見たとき、私は咄嗟に「怖い」と思った。・・・でも、違う。この胸を締め付けられるような感情は・・・)
萃華の手は、自然とザマスの手に向かう。
しかし、その手は添えられることなく、ザマスの手をすり抜けた。
「・・・え?」
ハッとザマスは我に返り、自分の手元を見ると、
自分の手をすり抜けている萃華の透けた手があった。
「・・・あっ、」
萃華はザマスの手に触れようとしていた所を見られ、咄嗟に手を引っ込める。
そして、自分がザマスに触れられなかった事に、言いようの無い孤独感、絶望感を感じ、肩を落とした。
「何故触れようとした・・・?」
そう尋ねるザマスの顔を見ることができず、
でもちゃんと答えなければと、萃華は素直にこう言った。
「・・・ザマス様が、苦しそうにしてらしたので・・・。」
「・・・私が?」
「・・・人間が、この様に争い、傷つけあう事が、まるで自分のせいだと感じていらっしゃるようで・・・、その・・・、」
うまく言葉で言い表せない萃華。
そして、「ごめんなさい。」と小さく謝る萃華。
ザマスは、何故謝るか尋ねようとしたが、その質問を飲み込み、こう言った。
「・・・覚えているか?」
「・・え?」
「お前が、木の下で眠っていた時の事だ。私はお前を建物の中へ連れ帰ろうとしたが、お前に触れられなかった。」
「!」
萃華は今までの事を思い返す。
今まで何の問題も無く、ティーカップや本、掃除用具に触れ、ゴワスにも撫でてもらった・・・。
なのに・・・
「・・・なぜ、私はザマス様に触れることが出来ないの・・・?」
咄嗟に口にした言葉。
それは、悲しみのあまり吐き出した絶望。
まるで、自分が拒まれているような、言いようの無い、【壁】を感じた。
その様子を見ていたザマスは、目を伏せ、静かに笑った。
「ふ・・・、きっと私もあの時、今のお前と同じ顔をしていたのだろう。」
「・・・え?」
ザマスは手を、触れられないはずの萃華の頭に添える。
突然の事に驚く萃華はキョトンとしている。
「・・・お前は、この本に載っている人間とは、少し違っている。弱く、自分ひとりでは何も出来ないが、何か強く優しい心、力を感じる。・・・ゴワス様が言っていた事が、少し分かった気がする。」
「・・・ザマス様。」
「だが、どうしてもお前が人間であるという事実が、お前を認めることが出来ない枷となっていた。故に今もまだ、お前を完全に認めることが出来ない・・・。許せ、萃華。」
「っ!!」
それは、ザマスが萃華の名を初めて呼んだ瞬間で・・・
萃華の澄んだ瞳からは、涙が零れ落ちていた。
「・・・その言葉が聞けただけで、充分です・・・。ザマス様・・・。貴方は・・・やはり、とてもお優しく、人情の厚い御方・・・・。触れられなくとも、貴方の傍に居させていただけるだけで、私は幸せです。」
「萃華、」
「自分自身のことはもちろんですが、ここに居させていただける間に、もっと貴方の事が知りたいです。」
萃華の言葉に、ザマスは照れたように笑う。
「大げさなやつだ。」
それは、ザマスと萃華の距離が、確実に縮まった瞬間だった・・・。
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