うたかたの。【2】




萃華が界王神界に現れてから、何日か経った。

空を飛ぶ事にも慣れ、今となっては自由にあちこちを行き来出来るようになった萃華。

とても高いところまで飛んでみたり、界王神界を一周してみたりと、楽しそうに飛び回ったりして、自分なりに楽しんでいる。


しかし、ザマスとの関係は相変わらずで、話すことはおろか、目もあわせてくれない。


(寂しいけれど、神様に対して「仲良くしたい」だなんて傲慢な事は言えない。私は居候の身なんだから、迷惑のかからないようにしなきゃ・・・。)



萃華は、自分がザマスにとって、視界に入るだけでも嫌気が差す存在であると認識し、なるべくザマスの前には姿を見せないよう、ひっそり過ごしていた。


その様子を見ていたゴワスは、困ったように頭を掻く。


近くで坦々とお茶を淹れるザマスを見つめ、ゴワスは探りを入れるように話しかけた。



「ザマス、萃華とはなにか話をしてみたのか?」



ゴワスの問いに首を振るザマス。



「せっかくの機会だ。記憶が無いといえど、彼女は元は人間だった子だ。前々から話している、人間についてのお前の価値観に何か変化が生まれるやもしれんぞ?」


静かにお茶を淹れていたザマスの表情からは、どうにも言いがたい迷いのようなものが見える。



「あの娘は良い子だ。まだ少ししか共に過ごしていないが、私には分かる。記憶が無く、人格も不安定なのだろうが、あの子の芯には強い何かを感じる。」



「・・・強い何か・・ですか」



「うむ。お前も話をしてみるといい。きっとお前にも、それを感じ取る事が出来るはずだ。」



「・・・・はい。」



お茶を静かに飲み始めるゴワスを、ザマスは黙って見つめていた。



(弱い人間に、強い心など存在するはずが無い。・・・ゴワス様は、あの娘から何を見出したというんだ・・・。)



それは疑いか、興味か・・・

ザマスはゴワスの言葉を受け、無意識に萃華を探し始めた。



_______________


_____________________





ゴワス達が住んでいる建物から少し離れた場所に、一本の大きな木が立っており、その下にまるでベンチのように設置されている小さな岩があった。



「幽霊でも、疲れたりするんだなあ・・・。」



あちこち飛び回ったり、グルグル考えたり、色んなものに出会っていちいち感動したりと、なかなかハードな日々をおくっていた萃華は、ふと視界に入ったその木の下に降り立ち、小さな岩の上に横になった。

サアァと心地の良い風が吹き抜け、木の下から空を仰ぐ。



(・・・あ、この感覚、知ってる。・・・そう、私は、ずっとこんな景色を見ることを望んでいたんだわ・・・。)


まどろみの中、記憶を手繰り寄せるように、天に向かって手を伸ばす。

そのまま意識は途絶え、萃華は眠りの中へ落ちていった。



____________


___________________




萃華を探していたザマスは、自分が気に入っている場所のひとつである木の下に足を運んだ。

そこには、すやすやと寝息をたてている萃華の姿があった。



(・・・ここに居たのか。)


あまりにも無防備な寝顔に、思わず表情が崩れそうになる。


そこに心地よい風が吹きぬけ、萃華の美しい黒髪を優しくなびかせた。


彼女が着ている真っ白なワンピースも風にゆられている。


そんな光景を、ザマスは直感的に「美しい」と思った。



(人間相手に、美しい・・・などと・・・。私はどうかしている)



そんな甘い感情を振り払おうと、ザマスは首をフルフルと振って、再び萃華を見た。



(・・・幽霊が眠るとは・・・、なんとも不可思議な光景だな。)


ふう、と呆れたように息をつき、ザマスは萃華に近寄った。



「・・・ん、・・・」



一瞬身動きをしたが、またすぐに寝息をたてる萃華。

かなり疲れているのだろう。
ザマスが足音を立てて近寄っても全く気がつかなかった。



(・・・。幽霊は、風邪を引いたりしないだろうが・・・、)


幽霊といえど、元人間といえど、

さすがに女の子をこのような場所で寝かせておくのは心苦しいと思ったザマスは、仕方ない・・・と彼女に手を伸ばし、横抱きにして建物へ連れて行こうとした。


・・・しかし、



_____スウ・・・



「っ!」



ザマスの手は、萃華に触れること無く、萃華の体をすり抜けた。



「・・・・。」



その現象に言いようの無い喪失感、虚無感を感じたザマスは、行き場の無い自分の手を引っ込め、萃華を見つめたまま立ち尽くすことしか出来なかった・・・。





- 4 -
[*前へ] [#次へ]
戻る
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
リゼ