うたかたの。【0】
ふわふわと、宙を舞う感覚。
自分が今まで何をしていたのか、
自分が今どこへ向かっているのか、
何もかもが分からないまま、
ただただ自分を包む空間に身を任せ、
少女はそのまま目を閉じた。
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自分を包む浮遊感は消え、少女はゆっくりと目を開く。
彼女の澄んだ瞳が捉えたのは、今まで目にした事がないような世界。
否、少女にとっては「今まで」など存在しない。
少女の記憶は、自身の名前以外全て抜け落ちてしまっていたのだから。
「・・・ここは、」
移動しようとするが、上手く動けなくて苦戦する。
少女の、地面を踏みしめるべき足は、もう存在しない。
「私、浮いているの?」
何故?と首をかしげつつも、動けなければ何も始まらないと懸命に前へ進もうとする。
「・・・私は、・・・萃華。・・・そう。私の名前は萃華よ。・・・それで・・・、」
ゆっくりと前進しながら、今までの事、自分の事を思い出そうとするが、やはり自分の名前以外何も思い出せなかった。
・・・その時、
「貴様!何者だ!!」
突然怒声が響き渡り、驚いた萃華は声のするほうへ振り返る。
そこに居たのは、整った容姿をした人物。
「・・・あ、」
明らかに警戒心全開な彼は、攻撃を仕掛ける構えをし、今にも襲い掛かってきそうだった。
「あ、の・・・、ここは、どこでしょうか?」
「・・・・・。」
彼は萃華の質問に答えず、観察するかのように萃華の周りを一周した。
びくびくしながら固まっている萃華。
そして動きを止めた彼は、萃華に対する警戒心を解いた。
「・・・死者か。どうしてただの人間の死者が体を持ってこの界王神界へ居るのだ?」
「・・・ししゃ?・・・・かいおう・・しんかい??」
彼の言葉に首を傾げる萃華。
彼は呆れたようにため息をつき、困ったような表情で萃華を見つめた。
「君は自分が死んでいる事に気がついていないのか?」
「・・・え?」
彼は萃華の頭上を指差す。
萃華は、誘導されるように彼が指差した自分の頭上を見た。
「・・・輪っか・・・があります。」
「呆れた奴だ。まさか本当に気がついていなかったとは・・・。」
す、すみません・・・と何だかわからないまま謝罪をすると、建物の中からまた違う人物の声が聞こえてきた。
「ザマス?何をしているのだ??」
「ゴワス様」
ゴワスと呼ばれたその人は、萃華を見るなり不思議そうな顔をする。
「おやザマス、お友達かね?」
ゴワスの言葉に、ザマスと呼ばれた彼は「まさか!そんなわけがありません!!」と訂正した。
「では君は・・・?」
ゴワスが首を傾げて尋ねる。
ザマスもゴワスの質問に同調し、二人は萃華を見つめた・・。
「・・・・私の名前は、萃華です。それ以外は分かりません。勝手に貴方達の世界に入ってしまって、ごめんなさい。でも、私も何でここに居るのか分からなくて・・・。」
萃華の言葉にゴワスとザマスは難しい表情になる。
やがてゴワスが、再び萃華に質問した。
「名前以外分からない・・・と言うことは、自分の死因も、自分の生きていた時の事も、何もかもが分からぬ、と言う事かな?」
コクリと頷く萃華。
ゴワスはふむ・・・と少し考えた後、ザマスを見つめた。
死者であろうが、元は人間である萃華に、少なからず嫌悪感を抱いているであろう彼の表情は硬かった。
そして、ひらめいたようにポンと手を合わせたゴワスは、ある提案をした。
「萃華よ、君に起こった現象について、私も調べてみる事にしよう。君がここにやってきたという事は、私たちにも何かしらの要因があるのだろう。だから、しばらくここに居てみてはどうだろうか?」
ゴワスの言葉に、ザマスは明らかに嫌そうな顔をする。
ザマスが嫌がっている事を感じ取り、「で、ですが・・・」と躊躇う萃華。
しかし、ゴワスはザマスを見つめ、
「ザマス、お前も身近に人間を感じる良い機会だと思わんかね?」
とニコニコしながら尋ねた。
そんなゴワスの言葉に反論できるはずも無く、
「・・・分かりました・・。」
と、しぶしぶながらもザマスは了承した。
こうして、第10宇宙の界王神界に突如として現れた、幽霊の萃華の居候生活がスタートしたのであった・・・・。
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