凸凹ルームシェア
「何でいつもこうなの」
 季節限定のピーチサワーを飲みながら彼女が呟いた。かなり酔っているな、と察する。私は彼女に「オヤジくさい」と馬鹿にされる、ハイボールを口にしながら聞き流した。彼女が歴代の彼氏に振られた時の口癖だからだ。
 ピンクのハート形をしたビーズクッションに、横ずわりのまま木目調の白いテーブルに突っ伏し、寝息を立て始めた彼女を、私はミントグリーンの四角いビーズクッションから立ち上がると、ルームシェアをしている部屋の一つへ誘導した。東京近郊にあるマンションの2LKに私たちは住んでいる。
 「痛っ」
ファッション雑誌やら美容器具やらが乱雑に物が散らかる部屋に入り、服やランジェリーが脱ぎ捨てられたベッドへ彼女を寝かせると、足の裏に何やら硬い物が当たった。拾い上げると彼女が振られた彼氏から贈られたピンクゴールドのリングだった。彼女が起きた時に分かるようにと、ベッドのサイドテーブルへ乗せる。
 彼女の部屋を出て自分の部屋へ戻る。散らかった彼女の部屋から、片付いた自分の部屋へ戻るとホッとした。片付いている、というかより何も無いと言った方が正しいが。押入れつきの四畳半の和室に、実家から持ち込んだガラスの四角いテーブルと、近所のホームセンターで買った、ダークブラウンのカラーボックスが四つ壁際に並べられている。
 会社の同僚に何故か
「似合いそうだから」
 押し付けられた多肉植物が、ポツンと居心地が悪そうに、カラーボックスの上に乗っている。飾りといえばそれぐらいしかない。
 彼女は部屋を決める際に
「私はフローリングがいい!」
 サッサと決め、大型家具量販店でいかにも女子らしい装飾の付いた、ホワイトのベッドやサイドテーブルを買い込み、六畳の部屋へ配置した。私はもともと実家が古い木造建築で自室も和室だったので、別に異存はなくスムーズに部屋の割り当てが決まった。共用のテレビとブルーレイディスクとパソコンは、リビングへ置かれている。たまに一緒にI棒などのドラマや彼女が
「映画館で見そびれた」
 と言う流行ったらしい恋愛映画などを、レンタルしたブルーレイで観たりする。彼女のお陰で流行のドラマや映画や旬の俳優には詳しくなった。
 カラーボックスから、南アルプス山麓のミネラルウォーターと芋焼酎(これも「オヤジ臭い」と彼女が馬鹿にする)を取り出しライトブルーの100均グラスへ注ぐ。酒に弱い彼女と違い私は強い。私は焼酎にはこだわりがあり、ネットで地方から限定品をお取り寄せしたりもする。
 インテリアにもファッションにもグルメにも旅行などにも興味は無く、会社でも恋愛も興味の無い地味キャラで押し通している私と、それらを堪能している彼女と私は同じ空間で生活をしていながら、違う生き物だ。
 地方の実家が近所だというだけで私たちは知り合い、幼稚園から小・中・高と一緒に地元の学校へ通い、どちらも家が裕福ではなかったので、東京での就職を決めた。内定の決まった会社は別だったがたまたま近くで、互いの両親が
「女の子の一人暮らしは不安だから」
 同居を勧めた。幸いアクセスの良い場所に間取りの良いマンションが見つかり、私たちはルームシェアを決めた。思いっきり腐れ縁だ。
私たちは偶然クラスが一緒になる事が無かったせいもあり、学校では行動を別にしていた。成績は常にトップ10に入り優等生で通してきた私とは違い、彼女は中学で髪にパーマを当て金髪に染め、校長先生をも巻き込む騒ぎを起こしていた。そんな彼女でもきちんとした所があり、学校をさぼらず成績も悪くはなく不良グループとは一線を課していた。たまに家へ遊びに来て話をすると、付き合っている彼氏はその度に変わっていたが……。
 私たちは昔から対極だ。互いに無いものを時には羨み、時には僻み時には、喧嘩したりもする。それでも長年に渡り付き合い、ルームシェアまでしているのは、何もかもが違うからで、不思議とそういう方が上手くいったりするものだ。凸凹カップルならぬ凸凹ペアとでも呼ぶのだろうか。――End.――
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リゼ