烏たちの聖夜
 昔々、ある所に烏の夫婦が棲んでいました。メスの烏はかあちゃんと、オスの烏はかあちゃんのパートナーなので、とうちゃんと呼ばれていましたが、夫婦の間に子供はおらず二羽で暮らしていました。夫婦はとても仲睦まじく暮らしていました。
 あるクリスマスイブの朝です。とうちゃんは巣を作っている木の下に、何やら赤い物が落ちているのを見付けました。
「何カア?」
 拾ってみると赤いとんがり帽子で、てっぺんに丸くて白いボンボンが付いています。
「いいもん、拾ったカア♪」
 とうちゃんが巣へ持ち帰ってフカフカのベッドにしようと思っていると、木の上からかあちゃんが声を掛けて来ました。
「あなた、木にこんな物が引っ掛かっていたのだけれども」
 見るとかあちゃんも同じ帽子を持っています。同じ帽子が同じ所に……?夫婦は顔を見合わせて考え込みました。
「何か意味があるのじゃないかしら」
 と、かあちゃん。
「それなら残りのパーツも探しに行こう」
 と、とうちゃん。
 夫婦は帽子を被ると残りのパーツを探す旅に出ました。
「あ、あれ!」
 まず見つけたのはかあちゃんでした。老木の下に何やら赤い物が落ちています。赤いケープでした。
「肌ざわりが同じだカア」
 とうちゃんが触ると
「白い紐についているボンボンも同じだわ」
 かあちゃんがケープを結ぶ紐を引っ張りました。
「これは……」
 二羽が老木を見上げると、洞から年老いた雄の烏が顔をのぞかせました。
「俺が落としたんだ」
 と烏が言いました。夫婦が子供の頃から知っている、ずっと昔からじいさんと呼ばれている数年前に奥さんを亡くした独り者の烏です。年はいくつなのか誰も知りません。この辺りの烏の中では一番の古顔です。
「そのケープが欲しいなら二枚とも持っていけ。形見だ」
 そう言うとじいさんは洞へ引っ込んでしまいました。
 二羽は老木を後にしました。貰ったケープを羽織ると暖かく感じられました。
 二羽がまた歩いていると林の中へ出ました。子だくさんの若い夫婦烏が子育てをしている所です。遠くから子供達の賑やかな声が聞こえてきます。とうちゃんとかあちゃんが、何となく普段は避けている散歩コースです。
「いってみるカア?」
 と聞くとうちゃんに
「そうねえ」
 と頷いたかあちゃん烏が俯いた視線の先に赤い物が映りました。それは赤い靴下でした。履き口に白い毛が巻き付いています。
「とうちゃん、あれ!」
 とうちゃんが拾い上げると帽子・ケープ・靴下の三点セットができあかりました。
「人間の世界ではパンツもあるらしいけど」
 かあちゃんが靴下を履きながら言いましたが、烏にパンツは必要ありません。
「暖かいカア」
 とうちゃんが無邪気に喜んでいる傍らで、かあちゃんが何やら考え事をしています。
「この林で拾ったのも何かの縁だし」
 かあちゃんがとうちゃんに秘密でこっそり編んでいた子供用の靴下に、秋に豊作で夫婦では食べきれないと話をしていた、木の実を詰めて子供達へプレゼントをしてはどうかしら、と言うのです。
「それは良いな。明日はクリスマスだし」
 父ちゃんは賛成しつつ、こっそり子供用の靴下を編んでいたかあちゃんをいじらしく思いました。
 早速、帰ろうと夫婦が家路を急いでいると、ばあさんと呼ばれる、じいちゃんの次に古株の烏が探し物をしているのに出くわしました。じいちゃんと同じく数年前に夫を亡くしたばあさんです。
「あんた達この辺で……」
 と言いかけたばあさんの目が点になりました。
「そのサンタクロースセットは」
 聞くとばあさんが昔に作りまして、何年かぶりに虫干しをしていて風に飛ばされた物でした。
「帽子と靴下は妾が持っていた物じゃが、このケープはどうしたんじゃ?」
 と尋ねるばあさんに夫婦がじいちゃんに貰ったと答えますと、ばあさんはじいさんの許へ連れて行ってくれと頼みました。夫婦は顔を見合わせました。じいさんの群れとばあさんの群れは、夫婦が生まれる前からずっと敵対していたからです。それでも夫婦はばあさんをじいさんの許へ連れていきました。
「じいちゃんや、妾じゃよ」
 ばあさんの呼びかけに、じいさんが洞から顔を覗かせました。
「お前なんぞ知らん」
 素っ気なく答えるじいさんにばあさんはケープを振りました。
「何年もこれを持っていてくれたのだね」
 さめざめと泣くばあさんの話によると、昔に二羽は恋人同士でしたが、敵対するグループな為に親烏により引き離されたのでした。夫婦は顔を見合わせるとじいさんに木の下へ降りて来るよう頼みました。
「もう二羽とも群れから離れたんだカア」
「今からでもやり直せるわよ」
 夫婦の説得にじいちゃんは横を向いていましたが、ばあさんがあまりにも泣くので
「そんなに泣かんでもええ」
 と宥め始めました。
「儂もお前も群れを離れたんじゃしな」
 もう一度やり直そう、と言うじいちゃんの台詞に夫婦は喜びの声をあげました。
「お祝いにウチでパーティしましょう」
 四羽が振り返りますと、そこにはお父さん烏がいました。三羽の様子か気になり後を尾けてきたらしいです。
「靴下に木の実をいっぱい詰めて持っていくわ」
 とかあちゃんが言うと
「儂らはサンタの恰好をするかね」
 とじいさんが言いました。ばあさんも頷きました。
 次の日の晩にクリスマスパーティが開かれました。
 何年か振りでお揃いのサンタ服を着たじいさんとばあさんは終始ニコニコしていました。
 子供達が寝静まったら枕元へ置いてね、とかあちゃんはお父さん烏へ木の実が詰まった靴下をこっそり渡しました。
「また来てね!」
 子供達に賑やかに見送られ四羽は家路に着きました。じいさんはばあさんへ
「泊って行かないか」
 と誘いばあさんは顔を赤らめて頷きました。その様子を見た夫婦は羽根を繋ぎながら巣へ帰りました。
 その晩に
「今まで二羽きりだったけど、おじいちゃんもおばあちゃんも息子も娘も孫もできて私たち幸せね」
 かあちゃんが言うと、とうちゃんは頷きました。
「明日からはさみしくないカア」
 こうしてサンタ帽を拾った烏の夫婦はいついつまでも幸せに暮らしました。――End.――
- 1 -
[*前へ] [#次へ]
戻る
リゼ