そっと胸に抱く心
トントンと、規則正しく戸を叩く音がしてあの人の声がした。
文次郎「椛」
椛「文次郎さん?」
文次郎「ああ、入るぞ」
そういうと、文次郎さんは戸を開き部屋へと入ってきた。
椛「どうなさいましたか?」
文次郎「今日からお針子として働くわけだが初日からドタバタと人が来るのは大変だろう、俺が同級生の制服をまとめて持ってきた」
椛「ありがとうございます」
相変わらず優しい人…//どうしてこんなに思いやりがあるのでしょうか?
文次郎「ああ…暫くすれば奴らも自分から持ってくると言い出すからな、はじめのうちくらい休みながらするといい(そのうち二人である時間もなくなってくるのだろうしな…)」
椛「そのうち…二人で過ごす時間もなくなってしまうのでしょうか?」
文次郎「っ…それは、椛が望むのであれば俺はいつでも時間を作る//…と思う//」
椛「はい…///」
とても、恥ずかしい事を言ってしまいました。顔から火が出そうなほど熱いのです。ドキドキドキ心臓の音が文次郎さんに聞こえてしまうのではないだろうかと心配になる程に
文次郎「椛…」
椛「何でしょう…?///」
文次郎「俺は…いや、何でもない」
何を言おうとしてるんだ俺は、今はまだその時ではない分かっている!ただ、どうしても可愛すぎる愛らし過ぎるんだ。同じ事を思っていて口に出してしまう素直な所
嗚呼、ずっとこの時が続けばいいのにと思ってはいるものの
早く俺のものにしてしまいたいという気持ちが先走る、駄目だな俺は…
椛「どうか…しましたか?」
文次郎「いや、特に気にすることでもないのだが」
椛「はい?」
椛はどこか心配そうな声をしている。俺は馬鹿か、椛を不安にさせてしまうなんて…何か他の話題を…何か
そう言えば…昨日
文次郎「そう言えば昨日、俺と団蔵以外に誰か来たか?」
椛「っい、いえ…」
椛の口が少し強ばった。嘘を付いている…
文次郎「そうか…」
椛「はい…誰も来ませんでした」
徐々に小さくなる声、だけれどこれ以上聞くなと線を引くように言い切った。
文次郎「そうか」
何かあったのだろう。それは安易に予想できること、そしてそれは良くない出来事だったのだろうが、椛が話したくないのであれば無理に聞くことは良くないだろう
椛「はい……」
文次郎「椛、何かあれば俺がなんとかする」
椛「っ…」
文次郎「忘れてくれるな、俺が絶対何かあれば解決してやる」
椛「はいっ」
そっと手を握りそう告げると椛は嬉しそうに返事をしたのであった。
絶対俺がなんとかする。それは初めから決まっていること
椛を笑顔にするのは俺だけでいいんだと思う俺は狭い人間なんだろうな
椛「文次郎さん…ありがとうございます//」
文次郎「気にするな」
そういうと、するりと頬を撫でられくすぐったい気持ちになりました。どうすれば私も文次郎さんの力になれるかな?
椛「嬉しいです///」
文次郎「それに、椛の力になりたいのは俺だけじゃない。団蔵も椛の事を気にかけているんだ、心配することはない」
椛「団蔵くんも」
文次郎「ああ、そうだ」
椛「私も…私も何か文次郎さんの力になれる事がありますか?」
文次郎「俺の?」
椛「はいっ私も、文次郎さんの困ったときには解決出来るよう支えとなりたいです」
文次郎「椛…///」
くそ、どうして。これ程に嬉しい事があるだろうか、好きな女にこんな事を言われて喜ばない訳がないだろう
椛「ない、ですか…?」
文次郎「いや、ある」
椛「なんでしょうか?」
そういうと、文次郎は椛をそっと抱き寄せた。
文次郎「こうして俺の腕の中にいればいい///」
椛「えっ…はい///」
文次郎「椛がいるだけで不安なことなどなくなっていく、頑張ろうと思える」
椛「あっありがとうございます…?///」
文次郎「ああ…」
心臓の音が激しくなる程頭がくらくらしてしまいます。私はこれ程に幸せでいいのでしょうか?
これから何か不幸なことが起こるのでないか不安になる程に幸せで幸せで
文次郎さんの腕の中でくらくら、ずきすぎ、ドキドキ…嗚呼堪らなくこの人が大好きだ。
椛「他にも私に出来ることがあれば教えて下さいね?///」
文次郎「ああ…」
椛「…///」
そっとおでこを俺の胸に寄せる椛に心を踊らせながら団蔵が来るまでそうしていた。
椛と出会って俺は、自分が自分じゃないみたいだ。だが、今の自分も嫌いではない
それはきっと椛のお陰だろうな…
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