俺と私と僕と俺

「伊作、手すりはここからでいいのか?」

「うん、この廊下から端の厠までお願いしたいんだ」

「そうか、分かった」

文次郎さんと無言の時を過ごしていると外から声がした、手すりという事はきっと用具委員会の方なのでしょう。

わざわざ作って頂くのですご挨拶しなければ

椛「文次郎さん、外にいらっしゃるのは用具委員会の方ですか?」

文次郎「ああ、そうだな。丁度いい椛に紹介しておく」

文次郎が立ち上がるのを感じ椛も立ち上がると

文次郎「連れてくるから椛はここにいればいい」

椛「いえ、わざわざ作って頂くのです、此方からご挨拶しなければなりませんから」

文次郎「そうか」

ふっと笑うと椛らしいと思い、椛の手を取り廊下に向かった。

文次郎「伊作、留三郎少しいいか」

留三郎「あん?んだよ文次郎俺は忙しいんだぞ」

伊作「留さんったら一々喧嘩腰にならないの!」

文次郎「…お前らに紹介しておく、今日からここでリハビリをしながらお針子として働く椛だ」

留三郎「は…?」

文次郎に紹介された女の子の姿を見るより繋がれた手を見てびっくりしている留三郎である

伊作「あっ新野先生から聞いているよ!よろしくお願いします、僕は保健委員委員長の善法寺伊作です」

留三郎「俺は、用具委員長の食満留三郎だ」

椛「初めまして、今日からこちらでお世話になります。椛と申します、迷惑ばかりおかけするでしょうがどうかよろしくお願いします」

伊作「ゆっくり頑張ろうね!」

椛「はい、よろしくお願いします
用具委員の食満さんも手すりの事、わざわざありがとうございます」

留三郎「いや、気にする事はない…んだが所で文次郎との関係は?」

先ほどから文次郎と椛の関係が気になって仕方が無い留三郎はもう頭にそれしかなかった。

文次郎「…なんだっていいだろう」

眉間にシワを寄せ言葉を濁す文次郎にはあ?なんだよこいつやんのか?と反抗する留三郎だが椛がいるので喧嘩をする気のない文次郎は早々に部屋に戻ろうとした

椛「えっと…あの…」

文次郎「変に答えなくてもいい」

椛「でも…」

文次郎「いいんだ」

椛「はい…//」

椛の手をきゅっと握ると椛はそれ以上言えず顔を赤くして俯いた。

伊作「…ふふ」

文次郎「なんだよ…」

伊作「いや?いいなーと思って」

文次郎「…余計な事は言うなよ」

伊作「はいはい」

ニコニコしながら文次郎に返事をする伊作。伊作が余りにもニンマリとするので文次郎は気に食わず眉間にシワを寄せた、今は隈よりも眉間のシワの方がヤバイかもしれない

留三郎「あれってなんだ?」

伊作「秘密」

文次郎「椛部屋に戻るぞ」

椛「はっはい、では善法寺さん食満さん失礼します…」

留三郎「ああ…」

伊作「うん、また明日ね」

椛「はいっ」

文次郎に手をひかれながらも返事をし、頭を下げ部屋に入った。部屋に入るとすぐ戸は閉められ伊作達の視線を遮断した

ぐいっと文次郎に引き寄せられ急な事で反応出来ない椛は文次郎の胸へと飛び込んだ

椛「もっもももも、もっ文次郎さん!?//」

何がおきたのかよく分からないが、文次郎に抱き締められているのは理解できた。手を繋いだまま片腕で抱き締められる、心臓が早くなるのに時間はかからなかった

文次郎「…」

誰にも見せたくない、なんて無理な事だってのは分かっているが何と無く2人に合わせ会話をするのが気に食わなかった…

そして俺たちの関係なんて今は…ただの知り合い。それ以上それ以下でもなく、それが何よりイラついた。早く物にしたい、だけれどそれでは意味がない。もっとちゃんとお互いを知ってから俺を知って貰ってから…椛の目が見える様になってから…それからじゃないといけないと何と無く思う。

椛「文次郎…さん?//」

俺からの返事がなく困りながらも照れている椛…なんて可愛いんだ。このまま気持ちが伝わってしまえばこんなに悩まなくて済んだのにな、人間てのは面倒な生き物だ口に出さなければ分からないだなんて

だから…もう少しだけこのままで居させてくれ

椛「……っ////」

抱き締められている、今、私は、文次郎さんに抱き締められている。どうしたのか分からないけれど…文次郎さんに問いかけてみても返事はなく、けれど嫌じゃないから…私は文次郎さんの胸に頭を預けた

顔が熱い、大胆な事をしているのだと分かっています。はしたないのかもしれません…恋仲でもない男の方に頭を預けてしまうなんて…

すっと息を吸い込めばいつもの文次郎さんの匂いがして落ち着くのにドキドキしていて不思議な感じ…

文次郎「…椛」

椛「は、い…?」

文次郎「何かあれば1番に俺に言え…俺がなんとかするから」

椛「はい…//」

そんな事を言われてしまうと…嫌でも期待してしまう。ドキドキドキドキうるさいんです心臓が、罪な人…優しいけれど罪作りな人

私の気持ちを知っていてそんな期待させる用な事を言っているのでしょうか?もしそうなら…なんて酷いんだろう、それでも私はきっと本当の事を聞けないんだもの

伊作「あーあ…留さんのせいだからね」

留三郎「いや違うだろ…つかなんだんだあの二人」

伊作「さあ?」

留三郎「んだよお前も秘密にすんのかよ」

伊作「僕はなんも知らないんだから教えようがないんだよ」

そう、恋してるって事以外はね…。障子に映る抱き合う二人の影を見て僕はなんだがもっと嬉しくなった。作業してて気づいていない留さんは鈍いなーこれみたらすぐ分かるのになんて思いながらふふっと笑った。

留三郎「嘘くせえんだよ、伊作が嘘つく時その癖辞めた方がいいぞ」

伊作「え?」

留三郎「お前嘘ついたら笑うから」

伊作「えっ嘘、えー嘘だー」

留三郎「…委員のやつらにも聞いてみろよ」

伊作「えっ今までの嘘ばれてたの!?」

留さんったら意地悪っばれてたんだ…ショックだよ、なんで早く言ってくれないんだよ。
そして僕は真実を確かめるべく抱き合ったままの影を視界から外し隣の部屋に猛ダッシュ

次の瞬間僕の心にグサグサとガラスがささった事には触れないでね…はは
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