無自覚なまま過ごす
掴まれた手を触りながら私は物思いにふけっていた。今度は文次朗さんが会いに来てくれるとそう言われたから……
あの人は心臓に悪い事をする…私の手をとり自分の顔を触らせるのだから…//きっと私がドキドキしている事なんて分からないんだろう、無自覚というものでしょう
どうして、こんなにも私の心を文次朗さんで埋め尽くしてしまうんでしょうか?会える日が待ち遠しくて仕方が無いのです
椛「文次朗さん……//」
もっと声を聞きたい……触れられたい、出来る事なら見てみたい。それは叶う事のない事なのについ夢を見てしまう程私は……浮かれているのです
お風呂から出て包帯を巻き終える時にうっつら目を開けて見ても真っ暗で、包帯を巻いているからなのかもう見えないからなのか知ろうとはしなかった。
文次朗「伊作……少しいいか?」
伊作「どうしたの?何処か怪我?」
保健室で居残りをしている伊作の元へ行った俺は聞きたい事があった…少しの可能性を信じて
文次朗「聞きたい事があるんだが」
伊作「ん?何?」
文次朗「熊に襲われひっかかれて失明した目はもう見えないのか?」
伊作「へ?」
文次朗「だから、熊に襲われた時にひっかかれて失明した目は」
伊作「いや分かってる聞こえてるよ、だけどいきなりどうしたの?」
伊作は身を乗り出してそう言った。いきなりこんな質問をしたから驚いているのか?
文次朗「……この前の子の話だ」
伊作「失明……しているの?」
文次朗「ああ、両方な」
伊作「うそ………」
文次朗「片方は石が刺さり失明したと言っていた、そちらは可能性がないと判断したがひっかかれたのはどうなのかと思ったんだ」
伊作「うーん……どうだろう。そのひっかかれ具合にもよると思うんだ。眼球が完全にひっかかれていたら見えないだろうし、瞼だけなら当然見えるだろうし」
文次朗「そうか……それもそうだな」
伊作「今度新野先生に見てもらってはどうだい?」
文次朗「見えなかった時の事を考えるとな………」
伊作「うーんそうだね………中々言い出せないよね」
文次朗「まあ気になっただけだ」
伊作「力になれなくてごめんね」
文次朗「いや気にするな」
伊作に礼を言うと保健室から出る。やはり傷を見ない事には判断出来ないか……もし見える可能性があるのなら見える様にしてやりたいと思うけど、まだそんな話をする程仲のいい訳じゃない…嫌われたくないしな
文次朗「この話はまた今度にするか……」
もうすっかり夜になっていて辺りは真っ暗だった。椛の事を考えていただけでこんなに時間がたつのが早いなんてな…
苦笑いにも似た乾いた笑を一つ、部屋に向かっていると土井先生に会った。
土井「あ、文次朗お客さんには会えたかい?」
文次朗「はい、ちゃんと会えました」
土井「そうかなら良かった」
土井先生はニコリ笑うと通り過ぎた、土井先生はどうやら椛のことを知っていた様でどこか嬉しそうにしていた。
文次朗「知り合いなのか……?」
まあよく分からないけど会わせてくれた土井先生には感謝している、あのまま土井先生に言われてなかったら椛とすれ違っていたんだからな
椛の照れた顔や嬉しそうな顔……思い出せば頬が緩んでしまう、俺は知らぬうちに溺れていたようだ
部屋に帰り風呂に入る仕度をしていると仙蔵が帰ってきた、風呂に入ってたのか
文次朗「なんだよ風呂入ってたのか」
仙蔵「お前を待つ程私は暇じゃない」
文次朗「………ふん」
仙蔵「会えたのか?」
文次朗「あ?」
仕度をし終え部屋から出ようとすると仙蔵にそう言われた
仙蔵「客にだ」
文次朗「ああ、会えたよ」
仙蔵「そうか、良かったな」
文次朗「あっああ」
良かった………ばれていないみたいだな。短く返事をすると慌てて部屋を出た、仙蔵が後ろでニヤリと笑っていた事など俺は知らない
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