プロローグ

ディセプティコンの戦艦ネメシス。小さな体に広すぎる一室。大きなキーパネルに大きなモニター、大きな机に膨大な資料。なぜここにいるのかと、思案する事もある。頭脳内をめぐる様々な問題を追いやれば、理由は一つ、彼がここに、役割を与えたからと言えるのかもしれない。

「調子はどうだ」

その声で語りかけられれば、細い糸に絡みつかれてキュッと首を甘く締められる感覚に陥いったり、身動きできないほどの拘束を受けている気分になることがある。けれどもその絶対的な低い波長で、どこかほっと安心するのも事実なのだ。つくづく、両者は矛盾している。

「この古代文字の解読はもうそろそろ終わります。でも…再現するとなると私だけじゃちょっと大変ですよメガトロン様。助手もいません」

「必要か?ユズ。お前に、そんなものが」

この言葉は、メガトロンがユズを酷く評価しているように聞こえるが、半分当てはまるし、もう半分は当てはまらない。

彼女はこの艦内では、異端の存在である。金属生命体と対をなすその小さな体はほとんど地球上に住み着く人間となんら変わらないが、それは外見だけの話だ。逆に体内は金属生命体と同じ物質で構成されており、彼女自身の意志で形を変え、障害を全て破壊するほどの力を持っているのである。

そのような事実が根底にあり、ユズを快く思わない者もいるのだから、確かに、他の誰かに手伝ってもらおうなどという気は起きなかった。

それでもユズは、金属生命体に関する科学の知識を豊富に持っていた。それだけではなく、エネルゴン精製についての研究も、彼女は携わったことがあるという(いつどこでという疑問には、答えることはなかったが)。
メガトロンは、それを重大視した。この好機を、他者にさらわれてなるものかと。

ただし、この関係には自由という制約があった。ディセプティコンという組織に縛られない自由、ふらりとどこへでも歩き回る自由。

「それでもお前は必ず、我の元に帰ってくる」

「他に行くところもないですから」

「それだけか、本当に?」

メガトロンの鋭い指先が、ユズの輪郭をつるりと撫でる。ユズは抑え気味ながら声をたてて笑い、敬意をこめて、そっとそれに口づけた。
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