職業的興味



★「注意」ご一読願います。

★シーズン3設定です。



私の知らない間、見るからに脆いであろう生命体が組織内に居座っていた。背丈は160cm前後、小枝のような脚を鳴らして歩き(よくもあれで折れぬものだ)、手は薬品で斑点模様に汚れている。外見を述べただけではただの虫けらだが、曇天の真っ只中の如きこの戦艦には似つかわしくない快活な声を振りまき、組織内の者には「ユズ」と親しみを込めて名を呼ばれている。

興味深いのは此れが全くの別次元からやって来たということだ。私が知らずとも此れは私を知っている。それが真実であろうがなかろうが、珍しい生き物であることには違いなかった。

だが此れの面白いところは一つに止まらない。この組織内を渡り歩けるだけの科学的知識もさることながら、まるで私たちの思考や行動を手に取るように把握している。そう例えばこう言った具合に。

「頼まれていたデータの解析が終わって、送信しておいたから一応報告しにきたよ。ショックウェーブ、どうせ気づかないでしょう。あと忙しそうだったから、ついでにメガトロン様への報告ようにも加工しておいたし、プレダコンのステータスもまとめておいた」

私が一言も話さぬうちから、求められるであろうことを推測し実行する。元の次元で、此れを作ったのは私だと聞いたが…この細かな身体へ一体どのような性能を詰め込んでいるのだろう。

「えーと別に未来予知とか頭の中読めちゃうとかそんな超能力機能持ってるわけじゃないからね。ただの慣れだよ」

益々不可思議でショックだ。此れの知る私は、それ程までに長い時間を共に過ごしたことになる。

「ショックウェーブは自分の作品として私をそばに置いていただけだと思う。成功した個体は私だけだったみたいだったし、それ以上の理由はない…と考えればちょっとは納得できる?」

唇が半円を描き微笑む姿を見て、私の好奇心は膨らむ一方であった。スパークを宿しているわけでもないのに此れは感情を持ち、自分の意思で歩き行動する。指先まで行き届いた神経は我々同様器用に動作しており、表情は僅かな堅さもなく自然に豊かに変化できる。人間という生命から創り出されたにも関わらず非常に細部まで淀みなく機能している此れの核は、一体どのような形をしているのだろうか。

「どうかした?ショックウェーブに見つめられると、その…緊張して全機能停止しそうになるのだけど」

信じ難いが、他同様に私もお前への強い興味に取り憑かれている。ショックなほど強い職業的興味を。

「なんか変なの。あなたじゃないあなたが作ったんだけどね。…あ、ところでショックウェーブ、私いま行き詰まってる研究があって…もっもしよろしければお手すきの時にでもご教授いただけないでしょうか…?…うう黙られると困るだけど。あのね私、整理されたショックウェーブの考えとか広くて深い知識とかそういうの聞いてるのが好きなの。ああ言ってしまった!バカに見えると思って我慢していたのについ調子に乗って」

何故か上昇したらしい体温を下げようと冷え切った手を頬や首に当てきょろきょろと両目を泳がせている。此れは感情をひた隠しにしようとする時もあれば、このように容器へ並々注がれた液体のごとくこぼれ出すこともある。私の言葉を聞くのが好きだと言うが、此れの思考は全く以て複雑怪奇だ。わからない。ユズ、その瞳の奥には何が見えている?

「しょ、ショックウェーブ!え、え?今私の名前呼んだ?」

他に誰がいるというのか。実にまどろっこしい生き物だ。

「だっていつも此れとか彼れとかお前とかいい加減にしか呼んでくれなかったでしょう。すごく嬉しい。…ああもうまたそんな意味わからんって雰囲気でこっち見ないでよ」

実際に、全くわからない。此れの反応は、現在まで出会った私の名を聞く者、口にする者、対面した者のどれにも当てはまらない。威嚇するわけでも怯えるわけでもなく、ただ好意というものを態度で示しているのだ。

「ふふ、なんだか新鮮。もっと呼んでもらえるように頑張ろう」

何が楽しいのか知らないが、また笑みを浮かべている。何処かの私は、この小さな生き物とこうして日々を過ごしていたのだろうか。
- 33 -

[*前へ] [#次へ]

戻る
リゼ