おはようが言える日



体をピンと弾かれて、自分が眠っていたことに気がついた。ひやりと冷たい、それでいて頑丈な胸板の上はメガトロン様のものだ。生命維持装置でやっとこの世にスパークを繋ぎ止めている有様で、指先ひとつ動かす様子はない。スペースブリッジの爆発の後はずっとこの調子だ。では、今私を起こしたのは誰かというと。

「まーたここにいたのか。サボってんじゃねえよ」

苛立ちこちらを見据えているのはスタースクリームだった。後ろにはサウンドウェーブも控えている。…それはともかくとして、嫌な奴に見つかってしまった。ねちねちしつこく嫌味をいってくるから面倒くさい。

「オートボットの動向調査なら終わってるよ」

「他にもまだやること残ってるだろ。タダ飯食らいめ、働きやがれ」

「私はディセプティコンじゃなくてメガトロン様に仕えてるんだから、本当ならスタースクリームの言うこと聞く必要ないのだけど」

スタースクリームに感化されたわけではないが、私も私で苛々していた。メガトロン様が目覚めるような兆候もなければ、彼に仕えている私の存在意義すら薄まっている。だからこそ、先程の的を得ている台詞が気に障ったのかもしれない。するとスタースクリームは私の体を握りつぶさんと言わんばかりに乱暴に掴み上げて、威圧を含んだ態度でこう告げた。

「甘々だったこいつが寝込んじまって、さぞ悲しいだろうな。だが今は俺様がディセプティコンのリーダーだ。てめえを虫けらのように此処で捻り潰しちまうこともできるんだぜ?」

手に力がこもると、ぎしりと私の骨格が軋んだ。

「やればいいじゃない。チャンスだよ?だってスタースクリームがリーダーでいれるなんて、今だけなんだから」

これが決め手となったらしい。スタースクリームは憤って、握りつぶすよりも私を床に叩きつけようとした。衝撃に備えて身構えたけれど、いつまでたってもその時はやってこない。どうやらサウンドウェーブが振り上げた腕をきりきりと掴んでいるようだ。彼は平然としているから大して力を入れているように見えなくとも、スタースクリームの表情は苦々しく歪んでいる。

「今度はお前かよサウンドウェーブ。そうカッカするなって、冗談だ…何せメガトロン様お気に入りの家畜だからなあ。お前が止めることくらい、わかっていたさ」

何しに来たのか知らないが、スタースクリームは私を放り投げてひとりで腹立たしげに出て行ってしまった。私が毎日ここにいるので文句を言いに来ただけ?いや、サウンドウェーブが一緒なのだから、恐らくただメガトロン様の様子を見にきただけだろう。連れてきたのなら一緒に戻ればいいのに。

「ねえサウンドウェーブ、今日もメガトロン様起きないね」

言ったところで、彼は返事などしない。わかっているけど、私は自分で思っているよりもずっと気分が参っていた。メガトロン様の体が目の前で横たわっているだけで、いつも芯まで響く低音の声が聞こえないだけで、とても悲しい。例え復活したところで、世界にもたらされるのは混沌だけだとしても。

すると、ただ沈んでいる私をサウンドウェーブが拾い上げて元いた場所(メガトロン様の胸の上)に戻してくれた。目覚めてくれるのではと淡い期待を抱いている気持ちは、同じなのだろうか

「…私を慰めてくれるのはサウンドウェーブだけだよ」

うん、と頷かれた。事実は事実だが、肯定されても対応に困る。

「メガトロン様の味方も、…サウンドウェーブだけ」

この数分間も容体に変化はなく、生命維持装置の機械音が淡々と虚しく響いている。鼓動なんか聞こえるはずないのに、ちゃんと生きてる音が聞きたくて胸に耳を寄せた。サウンドウェーブが、私の背中を撫でる。ああメガトロン様、早く目覚めてください。あなたが目覚めて最初に見るものが、私であるなら尚嬉しいです。



- 32 -

[*前へ] [#次へ]

戻る
リゼ