決断の是非.1


※「★注意」をご一読ください。

※メガトロン、サウンドウェーブ寄りプチ連載。


ラチェットの示した座標へグランドブリッジが開いた。彼曰く、この辺りで救難信号をキャッチしたという。オプティマスはバルクヘッドとアーシー、そして勝手についてきたミコを連れてこの場所へやってきた。高くそびえる木々の足元は深い霧で覆われており、雨の降った後らしく地面は湿っていた。空はまだ雲で埋め尽くされて、湿気で一層陰鬱とした雰囲気を醸していた。

「静かね。本当にここなのかしら?」

「大体…その救難信号は人間のものか、ディセプティコンのものか、オートボットのものかもわからなかったんだろ?そいつはこんな場所になんの用があったんだ」

「…ねえバルクヘッド、ちょっと止まって」

ミコの言葉通り、バルクヘッドは足を止めた。定位置からするりと降り立った彼女は周囲を見渡し「あっ」と声をあげ、落ちていた携帯電話を拾い上げた。スマートフォンのようで、電池はあと少しのところできれようとしている。

「これ、いつもディセプティコンと一緒にいるユズが持ってるやつじゃないかな?待ち受け画面がほら、あはっ、メガトロンになってる」

ミコは楽しそうに、その画面を見せた。恐らく別の誰かの肩から撮影したと思われるメガトロンの横顔が、しっかりと映っていた。彼女でしか撮れない角度だろう。

「じゃああの救難信号はあの子から?」

「ミコ、何か手がかりになるような何かが保存されてはしないか?」

「うーん…あれ?そういえば、この動画のサムネイルこの場所に似てる」

保存されていた動画を再生すると、そこには確かに現在いる場所が映り込んでいた。もとは何を撮影しようとしていたかは知らないが、20秒ほど経ってから空から武装した人間達が降ってくる映像が流れ出す。

普段は発しないだろうユズの怒号が聞こえ、取り押さえんとする人間達の戦闘が開始された。だがすぐに携帯電話を落としてしまったらしく、空から雨が打ち付ける様と悲鳴や銃声等の戦闘音のみが記録されている。そこでとうとう、携帯電話の充電がきれた。雨の中生きていた方が奇跡だ。恐らく充電したとしても、正常に動作することはないだろう。

だが充分状況は把握できた。映像の中にいた武装勢力には、見覚えがあったのだ。

「間違いない、M.E.C.Hの仕業だ」

「じゃあユズはあいつらに攫われたの?」

「そんなことをしてなんの得があるんだよ」

「彼女の体は特殊なのよ。人間でもなく、私たちとも違う構造をしているけど、だからこそ全てにおいて未知数…武力を欲してる奴らにとっては非常に魅力的でしょうね」

アーシーの説明が終わったあとに、空を引き裂くようにして現れた戦闘機へ皆視線を奪われた。それはみるみるうちに形を変えて、華麗に地上へ降り立ったのだ。スラリと細い身体と、薄ら滲む静かな威圧はその存在を一層引き立てている。

サウンドウェーブだ。

バルクヘッドやアーシーは武器を構えて応戦の姿勢を示したが、サウンドウェーブは何をしようとする気配も見せずにただ周囲を見渡してからオートボットの方へ意識を向けた。オプティマスは二人を制するように前へ踏み出し、問いただす。

「もしかして、ユズを捜しているのか?」

サウンドウェーブは答えない。代わりに、背後から突進してきた飛来物がミコの手中から携帯電話を奪い去って行った。その飛来物とは、レーザービークである。主人の元へと奪ったものを送り届けてから、自分は元の位置へと体を収めてしまった。サウンドウェーブが携帯電話をジッと見つめるてから、オートボットへ再び目もくれることなく変形して、またどんよりとした曇り空の向こう側へ飛び立って行ってしまった。

「まさかメガトロンがサウンドウェーブをお遣いに出すなんてな。そんなにあの子供が大事なのか?何か弱みでも握られてるとか」

「真偽のほどはわからないが、彼女を見かける時はほとんど幹部と行動を共にしている。重要な情報をいくつか握っていることは間違いないだろう」

「それで、こちらはどうするつもりなのオプティマス?あの子確かに人間の形はしているけど…ディセプティコンなのよ。メガトロンの方も動いているみたいだし、わざわざ私達が行動を起こすこともないんじゃないかしら」

「だが、M.E.C.Hにユズのような特殊な技術を持たせてしまうのは非常に危険だ。地球の一般市民にとっても大変な脅威になる。無視することはできない」

よく目を凝らせば、現場はめちゃくちゃに踏み荒らされていた。きっとユズが抵抗した痕跡もどこかにあるに違いない。背後に開かれたグランドブリッジから基地へ戻る前に、オプティマスはもう一度振り返り辺りを見渡す。なんの手がかりも得られない。恐らく血痕すらも、あの雨で洗い流されてしまっただろう。ユズという少女が敵であるとわかっていながらも、空が晴れる頃にはまた彼女の小さな背中がこの目に映ることを、彼は祈ってしまった。


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