教育方針について


しばらくいないと思えばひょっこり現れ、また姿が見えないと思えばある日突然そこにいる。

ユズは姿が小さい分、出入りしても周囲に気づかれないことが多い。最近では、グランドブリッジの自分専用リモコンを製作し、更に自由な行動をとれるようになった。

その日もいつも通り、出かけるつもりだったのだ。リモコンは正常に動作し、グランドブリッジが大きく口を開けた。

だが駆けるユズの前に、突然行く手を阻んできた者がいた。

サウンドウェーブである。
すらりと静かに佇んではいるが、明らかな妨害行為だった。

「何か用事?」

返事はない。訝しみながらもユズは横を通り過ぎようとしたが、そうはいかない。サウンドウェーブの片足が床を叩き、またしてもユズの行く手を阻んだのだ。

『ユズはどうした!』

メガトロンの声だ。腹立たしげに怒鳴っている。後ろを振り向いても、彼はいない。サウンドウェーブの録音だろう。

『そういえばしばらーっく、見ていませんね』

これはノックアウトの声だった。

「たっ確かにこの間はちょっと長々数週間くらい留守にしてたけど今日はすぐ帰ってくるよ」

『ユズはいつも回線を切ってますから、連絡もつきません』

「つくようにしとく!しとくから!」

「…」

「ほんとだってば!」

泣く泣く懇願すると、サウンドウェーブは体を屈めてスッと片手を差し出した。その意味を汲み取り、どきりとする。ユズは首を振ったが、催促され、手元にあるグランドブリッジのリモコンをしぶしぶ手渡した。

サウンドウェーブの細い指が、ぶつり、とリモコンを捻り潰す。
口を開けたが、声が出ない。声にならない瞬間だった。

「それ作るのにいろいろガラクタ集めて試行錯誤したのに!あああうそ、うそだ。うそ」

「…」

「…わかってるよ。私が悪いんでしょう?うん、私が悪かったです!すみませんでしたっ!ごめんなさいっ!」

言葉とは逆に、不貞腐れているような態度をとっていた。サウンドウェーブは背を向けてしまったユズを摘み上げると、肩に乗せたままやはり無言で歩き出した。

「…私、今ある仕事は全部終わらせたからもうないからね」

「…」

「なに?サウンドウェーブならなんでも簡単にちょちょいとできちゃうじゃない。別に私じゃなくても」

「…」

「私は絶対に」

「…」

「やりますやります!やればいいんでしょう、働きますよ…」

彼の前で意地を張っても全て黙殺されてしまうため、自身の意見がすべて跳ね返ってきているような気さえする。

だが、ふと伸びてきたサウンドウェーブの指が、くるくるとユズの頭を優しく撫で回したのだ。

すっかり苛立っていた気分が、しぼんでいくのがわかる。

「その代わりメガトロン様には、サウンドウェーブが休暇交渉してよね」

そこでおとなしく、彼の足が止まるまで待つことにして、レーザービークと同じような待遇を受けていることに関しては、とりあえず異議申し立てを見送った。


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