沁みわたる



私はユズに銃を向けた。にも関わらず、彼女は堂々と胸を張って立っている。後方には、オートボットに味方する人間の子供が三人揃っていた。私には、それらを連行する義務がある。

「ユズ、どけなさい」

「命令しないで」

「あなたのために言っているのです」

とはいいながら、素直に従うような性格ではないことくらい分かっていた。誰かが何と言ったところで、納得のいく説明がなければ絶対に首を縦に振らないのがユズなのだ。

人間たちは、私と彼女を交互に見た。目の前にいる敵を、ほんとうに信じても良いものかと迷っているようだった。

「メガトロン様に知れたら、どうなるかわかっているのですか?」

「私はメガトロン様に仕えているだけでディセプティコンではないし、オートボットでもない。メガトロン様に見つけ次第人間共を殺せと、命令されているわけでもない。だからどうしようと自由でしょう」

「そんなことがまかり通ると」

「自由だから、ここであなたを力ずくでどかすこともできるんだよ」

本気かどうかなど、判断がつくはずもない。何故なら彼女は、鋭い言葉とは逆に一切武器を構えようとはしなかったからである。

それでも私は、彼女を通してしまった。いや、私は自分の意思で、彼女を通したのだ。

間違ったことをしただろうか。組織に反旗を翻す行為だっただろうか。

そんなことはないはずだ。何故ならここにいたのは私と彼女、そしてあの人間たちだけ。組織の力など及ばない、閉鎖された場所で起こった出来事なのだから。




...





艦に戻った私は、ユズに会いに行った。相変わらず何か考え事をしているようだったが、私を見てすぐに挨拶をしてくれた。

「すみません、あなたに銃を向けてしまいました」

謝罪の言葉を口にすると、彼女は驚いているようだった。

「謝る必要なんてない。だって私はきっと、これから何度も同じことをするよ。」

知っています。共に過ごした時間は短くとも、そのくらいは。なんといってもあからさまでわかりやすい感情表現が得意なのですから。

それでも私は、私はただ。

「私はただ、あなたにまだここにいてほしいのです。」

そう、独りよがりで自己満足な理由だ。この体の機能が停止するその日までは、彼女にいて欲しかった。
誰になんと言われても構わない。

どうせ長くない命なのだから、この小さな生き物の役に立ちたいと言ったって、罰は与えられないだろう。

困らせてしまっていることは目に見えている。言葉をつまらせ俯いて、それでも優しいユズはこう言った。

「ありがとう。」

ああ、この言葉のために生きている。

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