愉快ドライブ


風を切り颯爽と走り抜ける真っ赤なスポーツカー。

見た目は魅力たっぷりの車に乗っているのだから、もっと気持ちの良いドライブであっても不思議はないのだが、聞こえるのがエンジン音だけでなくうっとりと自賛するノックアウトの声まで含まれているとなれば、気分が落ち込むのも無理はない。

ゆらゆら動くハンドルを眺めながら、形ばかりの運転手は身を丸め、足を抱えて退屈そうにしている。

「ユズ、シートに足を乗せないでくれません?ああそれに土足じゃないですか」

「…ブレークダウンに乗れば良かった。いちいちそんなこと言わないもの」

「その言い草…あの銃撃戦の中、拾ってあげたのは私ですよ?こちらだって好きで乗せてるわけではありません。靴から零れた土が体の中でザラザラいいますし、手垢だらけになったり薬品や火薬のひどい香りまでこびりついて」

「すっごく失礼!」

『なあ、グランドブリッジ呼ぼうぜ』

「ブレークダウンに賛成」

「お前は先に帰れば良いだろう」

『じゃあそうさせてもら…』

「ダメ!ズルい!先に帰ったら怒るから」

彼女一人が怒り狂ったところで特に問題はない、と言いたいところだが、これまでの経験から後々の扱いが面倒になることは目に見えていた。ひとまず不満は一通り込めて、ブレークダウンは低い唸り声をひとつあげるだけに留めた。

『…おっ、ユズ、ラジオでお前が好きな曲流れてるぞ』

「えっうそ!」

「なんでそんなものわか…ああ!ユズ勝手に触らないでください!」

カーラジオが手動でオンに変わると、アップテンポの曲調に乗せて男性ボーカルがロックを歌っている。ちょうどサビに差し掛かるあたりらしい。

「アイブギービン!」

『アアアアア!』

「!?、おい、やめろ…」

なんとユズに続いてブレークダウンまで歌い始めた。

「ジャジャジャジャジャジャーン」

『ジャジャジャカジャジャラン!』

「ッへーい!」

『イヨッシャアー!』

ひどい音だ。聴覚が汚染される。頭痛がする。と、ノックアウトは身の危険を感じていた。

「ふたりともやめなさい!」

「あっ、なんで消すの!」

「ユズ!あなたは私の中でそんなに激しく動かないでください」

「変な言い方しないでよね…しかもなんか逆だし…」

『だから「帰ろう」とさっきから言ってるんだ。ユズなんか連れてたらやかましいに決まってるだろ』

「ブレークダウンには言われたくなかったけどね」

「…」

助手が正論を言っている。
最初から艦内に放り投げてくればよかったのだ。

ゴロリとシートに寝転がったこの異生物に振り回されていると自覚した時、心底そう思わずにはいられなかった。

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