主のお気に入り




「ユズですか?」

ノックアウトは怪訝そうに彼を見た。まさかドレッドウィングから彼女について聞かれるとは思わなかったのだ。だがまだ一度もみたことがないというから、納得した。

「メガトロン様がよく口にしている名だ」

「お気に入りのペットですからねえ」

「ペット?メガトロン様がそんなものを…」

「なんでも、この世界ではないサイバトロン星から来たとか。よく知りませんけどね。関わらない方がいいですよ、実験台に使われたくなければ」

メガトロンに頼まれた発明品のテストに、ビーコンたちを使うこともある。自身も危うく怪しげな薬を注入されそうになったことを思い出し、ノックアウトは頭を何度も横に振った。

「科学者なのか?なぜ顔を見せない?」

「多分…たまにすれ違ってると思いますよ、気づかないだけで。まあ、ほとんど自室にこもりきってることもありますけど。そんなに気になるなら会いに行ってみたらどうですか?今はシールドの強化を指揮してるはずです」

いや、と言いかけたところで、メガトロンから通信があった。一言、「今すぐ来い」とだけ。

ひとり踵を返しデッキへと向かったが、扉が空いた時にはもう誰かと会話の最中であったようだ。

主と、もうひとつは紛れもなく女性の声。よくよく目を凝らしてみれば、メガトロンの肩には小さな生き物が足を投げ出し座っており、身振り手振りを加えながらなにやら説明の最中である。

「丁度いい。今の見解を一通りドレッドウィングにも説明しろ」

急に自分の名前を呼ばれ、ハッと意識が戻ってきた。その小さな生き物と視線が合う。

「オートボットの動きをまとめてみたのですが」

地球の映像データが、ふわりと目前に浮かび上がる。そこには赤い点がいくつか瞬いていた。

「彼らの動きには規則性があります。闇雲というより、目的があって、的確にその場で作業を行ってる可能性が高いですね。シールド強化の合間にその地点を回って調査してきましたが、心当たりがあります。古代のサイバトロニアンの文献には…、いえこの話は後で。とにかく、次に現れるのはこの緑の地点ではないかと。先回りするんですか?」

資料を手元のリモコンで巧みに操りながらつらつらと話した後に、答えを求めるようにメガトロンを見上げた。

「ドレッドウィング、ユズを連れていけ」

「えっ、ええ?!ちょっと待ってくださいメガトロン様!私今帰ってきたばっかりですし、これからシールドの強化に戻らなきゃいけないし」

「だからサウンドウェーブに落とし込んでおけと言っておいただろう」

「そんな暇あったら私が指揮した方が早…、ああはい、はい、わかりました!働きますよ!それじゃあ、その、えーと」

口ごもりながら、チラチラとし視線を投げてくる。ドレッドウィングが手を差し出してやると、目を丸くして間抜けな表情をしていたが、すぐに飛び移ってきた。



その後、現場に向かう途中しばらく無言であった両者だが、ユズの方から話を始めた。

「新しい反応でした」

「何がだ?」

「任務が私と一緒だと知ると、最初は大抵、皆嫌な顔をするんですよ。ましてや体に乗せてくれるなんて」

「俺はメガトロン様の御意志に従っただけだ」

「それもまたビックリです。あの組織でまともなのはサウンドウェーブくらいだと思ってましたから。あなたが来てくれて、とても助かってますね、メガトロン様は」

何やら思い出し笑いをしているようだったが、ジッと見つめられていることに気づいたのかすぐに口を噤み咳払いをした。

「…いいか、オートボットと鉢合わせても、余計な手間はかけさせるなよ」

「その点はお気になさらず。戦闘が始まっても、必要な情報さえ得られたら勝手に帰りますから。あなたはあなたの任務を果たしてください、どうぞ」


あまりにも無邪気な言葉と態度は、破壊や野望には全く無縁のようにも見える。それでいて、驚くほど頭の回転が早いような印象を受けた。

どんな相手にも、弱みを見せない。隙がない。恐れない。

体は小さいが、同じ種族であればきっと、さらに素晴らしい働きをするだろう。


メガトロンのお気に入りのペット。

その意味がようやく、ドレッドウィングにも分かりかけていた。

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