仰せのままに

「なにをグズグズしているのだ!」

メガトロンの苛立ちが爆発し、いつとばっちりを食うかと周囲が怯える中、扉を開けて小さな足音をコツコツと鳴らしながら入ってきた彼女に視線が集中する。

メガトロンは張り上げていた声を鎮め、ゆっくりと彼女の方を振り向いた。

「ユズ、わかっているな。我はあの兵器がほしいのだ」

サウンドウェーブのバイザーに映された箱型の物質。ユズは無駄のない短めの返事だけを残して、グランドブリッジの向こうまで走り抜けた。

その先は、ディセプティコン軍、そしてブレークダウンとノックアウトが、オートボットと応戦している真っ只中。今、メガトロンの求める古代兵器を手にしているのはブレークダウンだが、緑の巨体、バルクヘッドにたちはだかれ状況は不利のようにみえる。

ユズは思い切り飛び上がり、横からバルクヘッドの頭を蹴りとばした。その衝撃がブレインサーキットに異常をきたし、ぐるぐると目眩を引き起こす。彼の体は地面に叩きつけられて砂埃をあげたが、すぐに態勢を立て直すことはできない。

「ブレークダウン、持ってるものを貸して」

「それでどうする」

「あなたは右へ真っ直ぐ走って。なにがあってもまっすぐね」

ユズは作戦を簡単に説明し、ブレークダウンはその通りにひた走った。彼女が示した先は、散らばるオートボットでさえノーマークの方向である。
ユズはすぐに携帯から、ネメシスへ連絡をとった。

「今から言う座標にグランドブリッジを開いて」

だが今、両者が求める古代兵器はユズの手の中にある。それを取り上げようとまず飛び込んできたのはアーシーだ。ユズは人間の大きさの概念からすれば決して小さいとは言えないそれを軽々と持ち上げたまま、ノックアウトの名前を呼び、彼めがけてそれを投げつけた。

注意がそちらへそれている間、ユズは上手く戦場の間を駆け抜ける。追いつこうとしたオートボット達を、ビーコン達が阻んだ。

「ノックアウト、こっち!投げて!」

開かれたグランドブリッジの向こうへ走るブレークダウンが見える。ノックアウトはまっすぐそちらへ兵器を投げた。ブレークダウンが向こうでキャッチし、その瞬間にグランドブリッジを閉じるという寸法だ。だが今のままでは、その前に失速してしまうだろう。ユズはそれに追いつくため更に足を速めたが、同じく、兵器を奪おうと全速で向かってくる者がひとりいた。

オプティマス・プライムである。

その姿はユズも認めたが、彼は一歩及ばなかった。ユズは飛び上がり矢のように空中を裂くそれを上手く掴むと、ブレークダウンが待つグランドブリッジの向こうへ投げ直した。

刹那、跡形もなく消え失せたブリッジ。オプティマスは、地に足を付けたユズを見下ろしていた。

「君は一体」

その言葉のすぐ後、ユズの携帯が鳴っている。おそらくノックアウトだ。ユズはオプティマスに背を向け、駆け出した。勿論、オートボットもふたりをそのまま見過ごすわけにはいかない。激しい銃撃が飛び交う中、ノックアウトはユズを拾い上げると、そのままビークルモードで荒野を走り抜けていった。




「よくやった、ユズ」

メガトロンの手中には、あの箱型の古代兵器が握られていた。ノックアウトはちらりとユズを一瞥したが、彼女はただにこりと笑顔を絶やさずにるだけである。

「私はほとんど何もしてませんよ、持って帰ってきたのはブレークダウンです」

メガトロンは目を細め、それからくるりと踵を返した。それを合図に、ユズも彼に背を向ける。

「淡泊ですねえ、あなたは」

「メガトロン様は、オートボット達が人間そっくりの私に本気で手だしできないって知ってただけ。あ、閉じこもるから、しばらく部屋に入ってこないでね」

そう言い残し、きたときと同じようにコツコツと足を鳴らして部屋を出ていった。ノックアウトとブレークダウンは顔を見合わせてから、彼女が消えていった扉の向こうをもう一度見つめ直した。
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