どこかで君と

エネルゴン採掘場でオートボットと交戦になったらしい。天井が崩れ、なんとか難を逃れはしたが出口がない。あちらこちらと穴をあけようものなら、バランスを崩したこの部屋ごと自分も埋まってしまうだろう。

どうしたものかと考え込んでいると、ガラガラとどこからともなく音が聞こえ、そちらへ歩を進めてみた。ユズは腰を抜かすかと思った。まさか彼、オプティマス・プライムまで一緒にここへ閉じ込められていようとは、誰が予測できたことだろう。

「君は…。人間がなぜここに」

彼とは初対面である。自分のことは知られていないらしい。

「あの、ええとこんにちわ。お一人ですか?」

ユズはオプティマスの疑問には答えなかった。しどろもどろと落ち着かない態度が彼の目には、自分の姿は見た目通りの人間に映っているのだ。

「ここへは仲間と共にきたが、ここに閉じ込められたのは私…と、君だけのようだ。」

ユズも頷く。

「じゃあ、あなたのことはその仲間が助けにきてくれるわけですね。それはよかった。ついでに私も一緒に出れそう」

「君はひとりなのか?」

「ひとりではなかったですけど…まあ、望み薄です」

重要機密でも抱きかかえているならともかく、ディセプティコンが自分ひとりのためにわざわざ手間を割いて迎えになどきてくれるだろうか?甚だ疑問である。

ともかく、オートボットが助けにくれば自分も共に脱出し、艦に帰れる。それに期待を寄せる事にした。

「助けがくるまでお話でもしましょうか?私、おしゃべりは得意なんです」

「随分と楽観的なのだな」

「あ、えーと…きゃっきゃーどうしようでられなくなっちゃったー!」

「……。とにかく、どこかに出られそうな場所があるかもしれない」

あっさりと無視をされたことに苦笑を浮かべつつ、ユズは近くの壁をパタパタと叩いてみた。キャノンでもかませば一発だが、やはり何が起こるかわからないというのは恐ろしい。

ユズはオプティマスを見上げ、警告しようとしたがその瞬間、その鮮やかな赤と青の巨体が傾いて、砂埃がざわざわと宙に舞った。
頭を押さえているところを見ると、めまいでもしたのだろうか。ユズはすぐ彼に駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

「ああ…大したことはない」

「嘘です、体が動かないでしょう?それに、ああやっぱり。瓦礫に頭を打ちつけられたのが原因ですね。目を見せてください。これを見て、右、左、…うん、通常の反応よりも0.57秒も遅い。後頭部の神経回路が異常をきたしているようだから、これ以上は動かない方がいいですよ。無理に働かせようとすると、それこそショートして他の回路まで焦げちゃいますから。やはり仲間の方々が来るのを待ちましょう。上半身だけでも起こせますか?」

オプティマスは、ゆっくりと起き上がり近くの壁へ体を寄りかからせた。ユズは一安心して、彼の肩へ飛び乗った。そんな気は無かったのだが、こうなってしまっては致し方ない。

「少し頭を下げてもらっていいですか?」

オプティマスはいう通りにした。ユズは後頭部の方へ回り彼が見えない位置を確認すると携帯電話からスルスルと一本のコードを取り出し、首元から彼の内部へと滑らせる。コードは自我を持っているように、やすやすと入り込んでいった。

「くすぐったかったらごめんなさい」

「何者なんだ?君は…っ」

一本の細長いコードは体内を観察し患部を探した。あまり気のいいものではないな、と、オプティマスは言葉を飲み込む。代わりに、壁の向こうから岩が砕ける音が聞こえた。そろそろ迎えが来るのだと、ふたりはその方へ意識をとられ、最初に安堵の声をもらしたのはユズの方だった。

「応急処置だけしましたから、あとはお医者さんに見てもらってくださいね」

その壁を突き破り、最初に見えたのはドリルの先であった。エネルゴンドリラーであるのはわかるのだが、予想通り、それを操縦していたのはオートボットのようだ。そして隙間からなだれ込むように、他の面々も司令官の安否確認へ必死になっている。

「いたわ!体は大丈夫?」

「ああ、私は問題ない、が」

オプティマスが見渡すと、先ほどいたはずの場所に彼女がいない。ユズは丁度、ぴょんと、ドリルの先に飛び乗ったところであった。

「待ってくれ、まだお礼も言っていない」

「ほんとに応急処置しかしてないんですよ。ではお医者様によろしく、オプティマス」

分厚い瓦礫の向こうまで、身軽な小さな体はすぐに見えなくなった。さて、彼女に、自分はあったことがあるだろうか。思い出せない。名も聞かなかった。

「誰だ?あの人間」

「わたしを知っていた」

「あなたは知らないの?」

「記憶にない、が、…私は名乗っていないのだ」

最後にいい残された自分の名前。オプティマスはユズの姿を、しっかりとメモリバンクに焼き付けた。
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