Excellent!

※コメディです







いつものオーディオプレーヤーは充電中のため、ユズは自分用に改造してあるノートパソコンにイヤホンを差し込んだ。彼女が音楽を聴きながら仕事をするのは珍しくもなんともない。ただし、半分金属生命体であるにも関わらず随分不合理なことをするものだと、周囲にとってそこが最大の謎であった。

スタースクリームはその疑問を実際に彼女に聞いたことがあった。するとユズは「少しは人間らしいところがあってもいいでしょう」とただそれだけの理由を口にした。そうなると、今度はいつもどんなものを聴いているのか、少々いたずら程度に気になってしまったのだ。

「別になんだっていいじゃない」

「隠すのかよ。怪しいなあ」

「もう、いいでしょう?この話は終わり…ってちょっと!」

不意に伸びてきたスタースクリームの手は、紛れもなくユズのパソコンをめがけていた。ユズはメインモニターに繋いでいたケーブルを抜き取り、半ば抱きかかえるようにして彼から後ずさった。

「なに焦ってるんだよ」

「焦ってなんかいません」

「じゃあそれを寄越せ」

「い、嫌だ!いやっ!」

「!?、おい待ちやがれ!」

しつこくこだわるスタースクリームから逃れ、ユズはひた走った。ここまでくると引き下がる理由もない。スタースクリームもそのあとを追いかける。

バタバタと騒がしい足音がネメシス内に響く。いくつもの部屋と、多くのビーコンたちの横を通り過ぎ、逃げ場はとうとうなく、自然とブリッジまで到達してしまったのだ。

飛び込んだ先には運がいいのか悪いのか、メガトロン、サウンドウェーブ、ノックアウトが揃っていた。まずい、と緊張が走ったその刹那。スタースクリームがそこに飛び込んできたのと同時に、ユズはイヤホンコードを自らの足で踏んづけてしまい、弾みでパソコンから、それが勢いよく抜けてしまった。

それによりせき止められていた音は栓を失い、ここぞとばかりにパソコンから溢れ出して行く。


《素晴らしい》

《まさかこれほどとはな》

《いい子だ》

《よくやった、ユズ》




パソコンから大音量で聞こえてきたのは、その場にいる誰もが聞き覚えのある声だった。メガトロンである。ユズは顔を真っ青にし、急いでイヤホンをパソコンへ差し直した。静まり返る室内。ノックアウトの口笛が鳴る。その数秒後、ガタン、がたん、と、重苦しい足音がユズの聴覚を揺らした。

「ユズ、今のはなんだ」

「ひい!ち、違うんですメガトロン様、これには深いわけがございまして、いえ、嘘です!そんなものありません!私、褒められて伸びる性格と言うかメガトロン様に褒められると嬉しくて有頂天になってしまうのでやる気がでない時はいつもこれを聴いて頑張っているんですでも本当にそれだけなんです!だから許してください、ひとりで聴いてる分には問題ないでしょう?!コピーも一切とってませんし、無論誰にも渡しませんから!だから、だからっ」

「…サウンドウェーブ」

「………」

「ああ!やめ、やめてえ!返して!閣下、お願いです、お慈悲を…」

「消去しろ。跡形も残すな」

「だめえええええメガトロンさまあ!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」

ワンワンとすがりつくユズを見ながら、おかしくて仕方が無いスタースクリームとノックアウトは腹を抱えて笑い転げた。その後しばらく、ユズが音楽を聴いている姿は誰も見かけはしなかったという。
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