台本でアイニージュ

「エリオット、これでもう、私たちお別れね」

締め切った倉庫から何やら芝居がかった声が聞こえてくる。ブラックアウトは、声の聞こえる方を覗き込んだ。

そこには声の主、ユズだけではなく、スタースクリームも見える。何やら冊子のような物をお互い持ちあって、特にスタースクリームの方はかなり苛々している様子である。

「次、スタースクリームの台詞だよ」

「何故俺がこんなこと言わなきゃならないんだ」

「だって今暇そうなの、スタースクリームしかいなかったんだもの」

スタースクリームが反論しようとすると、彼にもブラックアウトの姿が見えたようだ。不快感をまるで隠さず悪態をつきだしたものだから、ユズもブラックアウトに気がつき、手をふってちょいちょいと手招きしている。

聞けば、学校のイベントで演劇を披露したところ、今度は欠員の出たサークルから誘われてユズが舞台に立つことになったという。運悪くユズの目に留まったスタースクリームが、こうして彼女の練習に付き合わされているというわけだ。

ユズが説明している間も、スタースクリームは今にも台本を投げ出してしまいそうだった。

「これ以上付き合っていられるか!」

「そんなー…じゃあ、あと一回だけっ。いいでしょ?」

「断る!」

ユズが頭を悩ませていると、ブラックアウトがずいと前へ踏み出し、スタースクリームの手にある小さな白い台本を取り上げた。パラパラ一通り読んで、先ほどのユズの台詞から次の台詞、本来スタースクリームが言わなければならなかった台詞を探し当てる。

「残念だが、それはできない」

ぽかんと口を開けてから数秒後、慌ててユズは、「どうして?」と答えた。

「簡単なことだ、ユズ。私は君に恋をしている。生涯、君という女性しか愛せない」

まあ!と、ユズは軽く右手をほおに当てた。嫌な予感がしたスタースクリームが、間に「おい!」と声を挟んだが、ふたりにそんなことは一切関係なく、会話は台本通りに進んでいく。

「それじゃあブラックアウト、私をここから攫ってくれるかしら?」

「おい聞け!」

「それは勿論」

「ふざけるなお前ら!俺様無視するな!」

ブラックアウトは膝をつき、可能な限り背を縮める。そして台本通りに大きな手を差し伸べて、ユズの小さな手をとった。

「仰せのままに」

まるで一冊の絵本から、一枚切り取ったかのようだ。ユズはブラックアウトの演技力と、適応力、そして生真面目さに心の底から感心した。恐らく、誰かの横暴さに付き合わされて培ったものだろうが。

だがついに苛立ちが頂点に達したスタースクリームが、ブラックアウトに向けて銃を乱射した。それを受けて、被弾したブラックアウトも黙ってはいない。

元々仲の悪い彼らが、ユズの仲裁の言葉を聞き入れるわけもなく。次々と物が錯乱していき、壁が打ち抜かれるなど基地自体もダメージを受けたため、この事件はとうとうNEST内部も巻き込んだ大騒ぎへ発展してしまった。

























ほとぼりがやっと冷めた頃、ユズはやっと胸をなでおろしたが、後ろからやってきたアイアンハイドのゲンコツを受け、ユズは涙目になってその場に座り込んだ。そばではメガトロンに殴られ吹き飛ばされたスタースクリームが倒れている。

一部始終を観察していたバリケードは、見たままの感想を一言。

「お前らそっくりだな」

「「どこが!」」

スタースクリームとユズの息がピッタリあったところで、オプティマスから言い渡された演劇練習禁止令が解けるわけではなかった。


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