台本がアイラブユー
「ああ、ジュリエット!今迎えにきたよ」
戦闘機が並ぶ倉庫で、大きな声が響いている。声からして、その主はユズなのだろうが、よく見ればその他にもサイドスワイプ、双子、そしてバンブルビーがその場に固まっていた。
ディーノが声をかける前に、ユズがその姿に気づいて手を振る。だがそれとは正反対に、サイドスワイプは半ばうんざりしてようにディーノへ挨拶をした。
「何しているんだ?」
「学校のイベントで演劇をやるからみんなに練習手伝ってもらってるの」
「俺、敵A」
「俺、敵B」
双子が名乗った次に、バンブルビーが手を上げた。彼が敵Cの役の代わりとして、ユズの演劇練習に付き合っているようだ。だとすると、他の二人はなんなのだろうか。
「サイドスワイプはなんなんだ?」
「………いや、言いたくな、」
「囚われのお姫様ジュリエット」
「おい!」
あくまで練習だから、と、ユズはあっけらかんと笑っている。背丈が周りより近く、シルバーのボディがそれらしいというだけの理由で抜擢されてしまったらしい。
サイドスワイプはあからさまに嫌そうにしていたが、面白そうなのでディーノも少し眺めている事にした。
ユズが剣を振り回す動作をした後、敵ABCは「!」「うわあ!」「ぐえ!」と各々声を上げ、少々大袈裟とも思えるほど吹き飛び、がちゃん!と盛大な音を立てて倒れて行く。
ユズは台本をつまらなそうに眺めるサイドスワイプへ駆け寄った。
「遅くなってすまない、ジュリエット」
「え、あ、ああ、ええ、ロミオ。助けにきてくださったのね」
ぎこちない低音で話すサイドスワイプ。それだけでも、腹を抱えて笑だしたいくらいだ。
「僕はもう逃げないよ。絶対に、二度と君を離したりしない!ジュリエット、愛している」
そしてギュっと、ユズの白い手がサイドスワイプの手を握った。その瞬間、ガチっと明らかに固まったサイドスワイプは、その手を凝視して台本を落としてしまった。
ディーノは面白いものを見たというような表情で、腕を組み彼の様子を観察している。
「何照れてんだお前は」
「……どこ見てもの言ってんだ」
「ねえディーノ!どうだった?私の演技、いい感じだったでしょ?」
「さあ、相手の演技が下手すぎなてわからねえな」
ディーノをそのまま監督に置いて、ユズがテイク2をやると言い出したので、サイドスワイプはもうしばらくジュリエットでいなければならなかった。疲れた表情のサイドスワイプに、バンブルビーが「代わってあげようか」と言ったが、少し考えて、サイドスワイプはそれを断る。
それなら快く付き合ってやればいいのに、と、バンブルビーは肩を竦め、敵Cに戻るべく、元いた立ち位置へ帰って行った。
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