喧嘩のあとは



シャーロット・メアリングはNESTへ到着するなり、レノックスへ「ユズと話したいわ」と言った。レノックスは言葉を濁し、目を泳がせた。

「今は、その、ちょっと、具合が優れなくて」

「今朝はピンピンしてるという報告を受けているけど」

「それが、その…はい。つい、さっき」

「ツインズ、ユズはどこ?」

そばでぺちゃくちゃと喋っていたツインズに、メアリングは尋ねた。両方とも持ち前の明るい口調で、余計なことはいうなというレノックスの視線を消し飛ばし、ものともしない様子で話し出す。

「ユズなら今はやめたほうがいいぜ」

「オプティマスもいないからだーれも止められない。俺もパス」

「俺も」

メアリングはますます疑念をつのらせ、レノックスを押しのけてでもその先へ進んだ。すると、何やら段々と怒鳴り声が聞こえてくるではないか。声は当然一人ではなく、第二者の存在もうかがわせた。
見えてきたのは、黒髪の小さな少女。そして燃えるように真っ赤なボディだ。

「ひどいよディーノ!なんとかしてよ!」

「なくなったものは仕方ねーだろ」

「ディーノが机揺らしたからプリン落ちたんでしょう?!」

「ならまた買ってこいや」

「これは、レノックスが私にご褒美にってわざわざ取り寄せてくれた日本の抹茶プリンだったの!簡単に言わないでよ単細胞!スクラップ!」

「なんだと…?もう一回言ってみろ、斬り刻んでやる!」

ディーノが鋭い刃を出し始めたものだから、レノックスが慌てて間に入ろうとしたが、その前にメアリングがずいと前へ出てしまい、レノックスは少し怯み足を止めた。

「ユズ、プリンくらいまた取り寄せればいいじゃない」

「嫌。今食べたいんです」

「はっ!ついに本性だしやがったな、ガキが」

「表でなさい。今すぐに!」

ユズが怒鳴ると、後ろに大きな影ができた。メアリングもレノックスもディーノも、それを見上げた。少し遅れてユズが振り返ったその時

ごつん、と、鈍い音が建物全体に響いた。小さな少女に大きな拳が叩きつけられたのだから、普通の人間なら天国へ昇っていてもおかしくない。が、彼女は痛みに尻餅をついたくらいで、拳骨を落とした張本人を見上げすくみ上がった

「あ、アイアンハイド…!戻るの夕方じゃ」

「そんなことよりなんだこのザマは。説明しろ」

「うっ、どうして私ばっかり怒るの!ディーノだよディーノ!」

「ユズ、俺が悪かった」

「え、ちょっと、なにそれひどい!ずるい!……いったーーーい!」

アイアンハイドの拳骨をくらい、怒りのやり場を失ったユズはすっかりおとなしくなってしまった。アイアンハイドの説教を聞きながらうな垂れる彼女をみて、メアリングは頭痛がしたのかこめかみを親指でグリグリと押さえつけた。

「ここはいつもこうなのかしら?」

「少し前にも言いましたが、こいつら、まるで子供と一緒で…」

「給料アップを望むべきね、貴方」

レノックスは上司の目の前でもマイペースでいられる彼らが恨めしくもあり、羨ましくも感じた

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リゼ