いつものすれ違い

「冗談じゃない!」

雷でも落ちてくるのではないかというほど叫び声に顔を上げると、ユズがオプティマスに向かって噛みつかんばかりに怒りをあらわにしていた。オートボットにとっては日常風景らしく、ちらりと視線をやっただけの様子を見ると「またやってるな」くらいにしか考えていないようだった。

「それじゃ、いつ戻ってくるつもり?明日?三日後?一ヶ月後?ケイドや子供二人は連れて行く癖に、どうして私だけ留守番なのか、理解できるように説明して」

「ユズ、君は人間達に狙われている。いつだってそうであったように、彼らもまた君の身体構造に興味を持っているのだ。そこへ自ら飛び込んでいく理由はどこにもない」

「みんなだって、捕まったら殺されるリスクを背負ってる。条件はほとんど同じでしょう。なのにどうして私は駄目なの?人間なんかに劣っているとでも言いたいの?それとも、私が子供でチビでノロマで弱くて脆いから?あなた達とは種類が違うから?差別?区別?」

「そう言う意味で言っているつもりはない。君はディセプティコンとの戦いでも奴らと渡り合い、生き残った。それだけの頭脳と実力を持ち合わせていることは、誰よりもよく知っているつもりだ」

「じゃあ何故?!ねえオプティマス、昔はもっと私のことを信頼してくれてたじゃない。あなたが自分で今言った通り、シカゴでの戦いの時だって私の力を必要としてくれたし、人間との協定があった時には何度も私に仕事を任せてくれたでしょ。それなのに、今更連れて行けないなんて言わないで」

「…気持ちはよくわかっている。だが、何度も言っているように」

「だから、それじゃわからないから、もっと納得のいく説明をしてよ!」

とうとうユズは、右足を大地に強く叩きつけた。太鼓を叩いたような大きな音が地底から湧き上がり、表面をビリビリと震わせて、5mほど亀裂が走っていった。

「……ユズ、無茶な体の改造は負担が大きい。禁止していたはずだが」

話をそらされたことか、はたまた自分の意見を無視されたことに対してか、ユズは握った拳を何度か振り上げて反論する用意があったのだが、とうとう口にするのはやめてしまった。オプティマスへくるりと背を向けて歩き出したので、バンブルビーが後を追ってふたり向こうへ消えて行った。

「…オプティマス、お前さんの考えを否定するつもりはないが、ユズを置いていくことには賛成しかねる」

「同感だな」

ハウンドに続けて、クロスヘアーズが言った。

「置いて行ったところで、言われたとおり大人しくしていられる程利口じゃない。好き勝手行動されて手に負えなくなるよりは、連れて行った方がまだ余計な面倒が少なく済む」

「どちらにせよ、敵と出会わないルートを進もうとすれば、ユズのナビゲートが必要になるはずだ。センセイ、いま一度考え直してはいただけないだろうか」

オプティマスは、人間で言うため息を交えながら頷いて、後で埋め合わせをしておくと約束した。その視線の向かう先は、当然彼女が先ほどまで立っていた場所である。ケイドは他人事と思えず、「気持ちはわかる」と声をかけた。

「ユズは自暴自棄になっている。以前はもっと穏やかでよく笑う、戦いを好まない娘だった。だが、人間達の裏切りや仲間の死を目の当たりにする度に、変わって行ってしまった」

「言っちゃ悪いと思うが、面影はないな」

「…確かに、気がつくのが遅かったかもしれない。今更彼女の身を案じるには、あまりに彼女の力を頼り過ぎてしまった。だがそれでも、ユズをこれ以上危険に巻き込むことが、正しいこととは思えないのだ。皆は私を過保護だというが、果たしてそうだろうか」

彼の疑問には、簡単に説明がつく。他のオートボットとオプティマスでは、その目を通してみる彼女の姿は別物なのだ。オートボット達はユズを(恐らくは)仲間として、戦友として扱う。だがオプティマスにとって、彼女は娘か、もっと別な存在なのだ。

だがケイドは軽率な意見は差し控えることにした。何故ならほかのオートボットですら、彼にこのことを告げずにいることが、先ほどの出来事でよくわかってしまったからだ。

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