親友が今日、初デートらしい



★サム視点


急に青年姿のバンブルビーがうちにきて、車を貸してくれといってきた。どうせ元の姿の方がカッコイイ車なんだから、僕のあんなボロ車をわざわざ必要としなくても良いと思うんだけど、どうやら最近車の運転を覚えたらしい。メモ帳にペンを走らせたと思えば、『ユズを迎えに行って驚かせたい』と書かれていた。

そういうことなら仕方が無い。鍵を貸そうとしたら、バンブルビーはフルフルと首を振った。どうやらまだ不安が残るので、出発を見守っていてほしいという。そんなんでユズ乗せて大丈夫なの?いや僕は構わないけどさ。相棒が折角女の子とデートに行くって張り切ってるんだから、ついでにデートのアドバイスでもしてやるよ!

『デートなんかじゃない!』

何照れてるんだよ、僕とビーの仲じゃないか。じゃあ何?迎えに行ってその後どうするつもりなわけ?車に乗せてあげるんだから、ユズの行きたいところや君の連れて行きたいところへドライブするくらいしなきゃね。基本中の基本だよ。

『どんなところが喜ぶだろう?』

そうだなあ、お金をかけないならやっぱり何処かの自然公園や海を散歩するとか。一番無難なのは女の子の買い物に付き合って荷物を持ってあげることだけど、あれほど男にとって辛いことはないね。喜ばれる反面こっちは苦痛を強いられることになる。なんたって長いし試着の感想を求められるし…え、愚痴はもういい?ごめんごめん。

『そういえば、ユズは動物のいる公園に遊びに行きたいって言ってた』

お、いいぞ、その調子だ。そういう些細なことでも覚えておいてあげると、女の子は喜んでくれるものなんだ。ついでに今日の服装とか、いつもと違うところがあれば褒めてあげると尚良いね。まあバンブルビーならこのくらい簡単にやってしまいそうだけど。

『わかった。頑張ってみる!ユズが喜んでくれたら嬉しい』

よし相棒、その時がきたな。もう君に教えることは何もない。さあ!彼女のハートを射止めてくるんだ!ちなみに起こったことは少しも漏らさず後で僕に報告するように。

『ありがとうサム!君は最高の友人だ』

「サムー、こんにちわ…って、あれ?なんでビーが車乗ってるの?」

突然登場したユズに動揺し、ガクッとうな垂れたバンブルビーの頭がクラクションにぶつかってけたたましく音が鳴り響いた。どうやらカーリーが家に招きいれたらしい。全くタイミングの悪い…ユズはもう少し空気を読むべきだ。

「よくわからないけどごめん…。ところで、さっきも言ったけどなんでバンブルビーがサムの車に乗ってるわけ?」

まあ事情はいろいろあるのだけど、元々はサプライズにしようと計画していたのだから僕から言えることでもない。バンブルビーに視線を投げてコンタクトを交わすと

「そもそもビーは免許持ってないんだから。基地の敷地内ならともかく、公道走っちゃダメだよ」

そ、そうか、それは盲点だった!いつも僕は乗る方だし、運転しなくてもビーが勝手に走ってくれるから全然気がつかなかったよ。危ない危ない、犯罪の片棒を担ぐところだったじゃないか。

バンブルビーは先ほどの勢いをすっかりなくしてうな垂れながら車から出てきた。元々アジア人のユズは、今の姿のバンブルビーと比べてもすごく小さくみえるのに、優しく叱るその様子はどちらかといえば年上の姉のようにも感じた。

「なあに?公園くらい、ここから歩いてでもいけるじゃない。いつもは見ない景色をゆっくり通り過ぎながら過ごすのもいいものだよ。ね、行こう!」

ユズはさりげなくバンブルビーの肩に手を置いた。…そんなキラキラした目でこちらを見ないでくれないか、相棒。いや嬉しいのはわかるけれど。

最後に渡されたメモには、『あとでちゃんと報告するよ』と書かれていた。その話は今いいよ、ビー…ほらユズが不思議がっているじゃないか。戦いと運転以外はまるで疎い相棒の今後が、僕は心配だよ。まあ応援はしているけどね。いってらっしゃい、ふたりとも。ああ平和だなあ。
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