忙しい!



★和解

★第三者視点



一隊員の身で仕事中に盗み聞きとはなんたる愚行だと君は言うだろうが、どうかきいて欲しい。というのも、最近人間の姿で動き回っているあの宇宙ロボットたちの事なんだが、ついさっきオプティマスが、ウキウキと何かの準備していたユズを呼び止めたんだ。…どうだ、話の続きが気になってきただろう?

オプティマスはしばらく前から、ユズがそばを通りかかる度に話をかけようとして見送る、というのを繰り返していた。というのも彼は休憩も取らずに毎日忙しなく過ごしていたからなんだが、今日はやっと暇を見つけたらしくこう切り出した。

「これから少々長めに自由な時間がとれそうなのだ。もし良かったら、少し私に付き合ってもらえないだろうか」

ところがユズは困った顔をして手を迷わせながら「ごめんなさい、先約があるの」と答えた。…わかるだろ?週に一度のあの日なんだよ、今日は。あのディセプティコンのリーダー様と、細やかなお茶会を開く日なんだ。だがユズはそこまで詳しく告げなかった。オプティマスは毎日あちらこちらから引っ張りだこで、彼女の習慣など知っている訳もないし、まあいう必要もないといえばないわけだ。

「…そうか、では仕方がないな。また次回にでも」

申し訳なさそうなユズを尻目に会話を終わらせようとしたオプティマスだったが、なんとここで当の本人、メガトロンまでが登場したんだ。俺は気になって気になって仕事どころじゃなくなったね。これから先の展開が、面白くならないわけがないだろう!

「何をグズグズしているのかと思えばまだこんなところにいたのか。毎回毎回、俺がわざわざ時間を割いてやっているというのに」

オプティマスはすべてを察したらしかった。両者に挟まれたユズはまるで浮気現場を目撃された二股女みたいに窮屈そうだ。

「君の先約というのは」

「ええと、毎週この時間はメガトロン様にお時間をいただいて愚痴を聞いてもらってるというかなんというか」

「毎週…」

「どうしたオプティマス?これに用なら後にしてもらおうか」

メガトロンはユズに腕を回して引き寄せて、明らかにこの状況を楽しんでいた。まあ俺も気持ちはわかる。普段は涼しい顔をしているオプティマスが眉を寄せてジッと直立しているものだから、からかってやりたくなったんだろう。

「私はお前と違って忙しいのだ。今以外に空いている時間などない」

さっきは「次回」と言いかけていたが、気が変わったらしい。

「と、言っているが…ユズ、まさか俺との約束を反故にすると言うのではあるまいな?」

「うっ、それはその」

「彼女が困っているだろう。ここは普段から退屈を持て余しているお前から進んで譲歩するべきだ」

「さも俺が毎日暇であるような口振りだな。悪いがこちらも、お前の押し付ける人間共とのつまらん仕事を片付ける合間に、其れなりに楽しみにしている時間なのだ。譲るつもりなど全くない」

これに対し、反論したのはユズだった。

「よくもまあそんな嘘が次から次へとつけますね…オプティマス、あなたの反応を見て面白がってるだけだから真に受けないでいいからね。メガトロン様は明日も基地にいるんでしょう?だったら明日に予定を変更していただけませんか?」

「今以外に空いてる時間などない」

「子供みたいに張り合うのはやめてください!」

大人気ないとはまさにこのことだよな。争い元はなんであれ結局、お互いに譲り合いたくないだけなんだから。
だが困り果てたユズを見兼ねて、オプティマスの方から引き下がる覚悟をしたらしい。「急に声をかけてしまった私が悪かった」と彼女に謝罪して、くるりと背を向けてしまったのさ。

その後、どうしたと思う?ユズは慌ててオプティマスの腕を掴んで引き止めた。すると彼は石膏でもぶっかけられたように固まって、ユズの手を見つめたままピクリとも動かなくなってしまったんだ!どんな屈強な敵をもなぎ倒してきたあのオプティマスがだぜ?女の子に触れられただけであの有様とは俺も驚いたが、メガトロンは可笑しくて仕方なかったらしい。腹を抱えて笑い転げていたよ。いや、これはこれで珍しいものを見たと思ったんだがね。

「ごめん!どこか痛かった?」

「いや、…いやそうじゃないんだ。すまない、まだこの身体に触れられることに慣れていないだけで、君が謝ることではない」

「くく、ははは!小娘ひとりになんてザマだ、オプティマス!どうだ、俺がいなければ飛び上がって大喜びでもしていたのではないか?」

「温厚な私にも限度はあるぞ、メガトロン。そろそろ黙らなければ私はうっかりお前の頭を剥いでしまいそうだ」

「…二人とももう少しリーダーらしくしたら?ほら、みんな見てるよ」

要するに、野次馬根性丸出しなのは俺だけじゃなかったってことだな。まあアレだけ騒いでいれば、誰であれ気になるだろう。何が忙しいだよ全く…俺から言わせればあいつら、かなりの暇人だぜ。

え、さらにその後どうなったかって?結局三人で過ごそうということにユズが強引に落ち着かせて、まとめて何処かに消えて行ったよ。最初からそうすりゃよかったんだ。
…なんだよ、オチが微妙だなんて言うんじゃないぜ?お前が勝手に聞いたんだ、俺の責任じゃないからな。

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