偽物02



★他とは別枠のお話です

★指だけ


サウンドウェーブは決して、私に無理を強いたりしなかった。というのは、彼は言葉通り、私の「嫌がること」は決してしなかったのだ。

「苦しいのか?」

ぬるぬると性器に侵入してきた指の形を感じて、空気を飲んだ私にサウンドウェーブが言った。ゆっくりと中を探り、引き抜いて、そしてさらに奥まで入り込んでくる。第一関節が中で折り曲げられただけなのに、私は歯を食いしばってその刺激に耐えなければならなかった。

「初めて体を開いた割に随分と抵抗が少ないが、それもそうか、お前は誰かに頼らずとも、いつも1人で慰めていたからな」

「そんな、だって、サウンドウェーブ、私、やっぱり」

「ああ悪かった。何もお前を責めているわけじゃない。確認しておきたかっただけだ」

意味を問う余裕なんて、私にはなかった。恐怖と期待が競り合って、内側から怪物が胸をかきむしっているのだと本気で考えていたほどだ。

自分の指を入れるのと、他人の指が入るのとでは、感覚が全く違う。当然だ。それは自分の思考とは全く繋がっていない、別な意思で動くのだから。先の読めない不安に、既に押しつぶされてしまいそうだった。

「あ、っやっぱりだめ、サウンドウェーブ、こんなの良くない」

「もう遅いだろうユズ、わかっているはずだ」

「ひいっ、く、あ、おく、奥は」

「奥が好きなのか?それとも」

「いやあ!だめ、どっちもだめ、やめ、あっ、んん」

濡れた指で肉芽を転がされて、長い中指が奥の壁を引っ掻いた。擦られる度に快感が私を溶かしていく。それは必死で自我を守ろうとする防壁であったり、今だ抵抗を続ける理性であったり、色々だ。

「ユズ、気持ちいいのか?生憎俺は人間でもなければ女でもないからな、何が一番お前にとっていいことなのか、言われなければわからない」

嘘を言え!真っ先にそう浮かんだのもつかの間、後からきた快感の波に押し流されて行く。口からでて行くのはとりとめのない無意味な言葉ばかり。

「こわい、っサウンドウェーブ、こわいよ」

「嫌か?やめるか?」

「わかんない、わかんない!こわいしか、わかんな、っ、ふ」

この時既に、触れられている部分は段々と感覚がなくなってきていた。何か入っているのかいないのか、差し込まれたのか抜かれたのか、ほとんどの思考を投げ出してしまっていたのだ。

急かすわけでもなく、ゆっくりと穏やかに追い詰めて行く長細い指先は、普段の彼からは想像もできないほど優しく丁寧で、子宮があるわけでもないのに腹部へ懐かしく甘い疼きを感じた。

ひねりっぱなしの蛇口が勢い良く吐き出す水のように、沸き起こる欲求が止まらない。涙でサウンドウェーブの顔は霞んで、輪郭すら捉えることが難しくなってしまっている。

「力を抜いて、楽にしろ。何も考えなくていい」

「できない、できないよお、んぐ、ひいっ、も、ぬいて、さわらないで、こすらないで!あう、ひ、ぐ、ああ、あ、あっ」

「我慢するな。見てるのも聞いてるのも、俺だけだ。そう、俺しかいない。今お前がすがっているのも、求めているのも、すべて俺だけ」

「ひ、いや、あああああ!そこはひゃめらの、やめ、とめてえっ!あん、あ、く、あう、いく、きもちい、サ、ンドウェーブ、あっ、あ、あ、あ、サウンドウェーブ、サウンドウェーブ…っ!」

ぐちゃぐちゃとかき混ぜる音が卑猥で劣情に酔いしれる。一握りの理性の端を手放せずに混乱していると、見兼ねたサウンドウェーブがひたすら名前を呼ぶ私の耳を舐めた。生温かい舌が這い回り、悦楽がぞくぞくと体を駆け巡ったと認識した瞬間、ぱちんと閃光が弾けてあらゆる感覚が無に帰した。

頭からつま先まで、心地の良い電流がびりびりと一気に走り、次にぐったりとした倦怠感がやってくる。サウンドウェーブのシャツはきっと私の涙で濡れているし、綺麗なスーツに皺を作ってしまったと思う。

「まだ溢れ出てるな。もう一度イくか、ユズ?」

「も、い、いや、ぐずっ、ひっく、ぬいて、ゆるして、ごめんなさ、い、ふ、わたしが、わたし」

「…悪かった、嫌ならしない。もう休んだ方がいい。眠ったらオートボットの軍医のところまで、俺が連れて行ってやる」

「でも、うっ、げほっ、でも」

「いいから休め。奴には何も言わない」

名残を惜しんで、私とサウンドウェーブの指先とは透明な糸が繋いでは空気に溶けて消えた。わたしが伝えたかったことはもっと別にあったが、抱き寄せてくれた彼の体温が余計に安心感をあおって、体と瞼が少しずつ重くなって行く。
どちらも紛い物の体なのに、体温だなんて、おかしな話だ。

「おやすみユズ、また迎えに行く」

次なんてない。
そういい聞かせた所で、未来の私はきっと、彼を拒絶することなんて出来ないのだろう。


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