合鍵02



★他とは別枠のお話



目が覚めると、メガトロン様の顔が私の隣にあった。寝顔なんて初めてみたな、とぼんやり考えていたが段々と現実が頭の中を侵食していき「何故彼と一緒に寝ているのか」という疑問にまで到達した。変な悲鳴が上がってしまったところで、メガトロン様は飛び起きようとした私の体を片腕で簡単にベッドへと縫い付けて「まだ寝ていろ」と一言だけつぶやくと、唸ったきりまた一眠り始めようとしている。

落ち着いていられるわけがない。体を押さえつけられた体制のままである為に抱きしめられているような形になってしまっているし、逆を向いているならまだ良いが互いに向かい合っている。

一度冷静になろうと決めておかれている状況をゆっくり観察してみると、外から帰り着替えもせずそのままベッドへ入ったらしく私は私服を着付けっぱなしになっていた。確か昨日はショックウェーブの厳しい教育でフラフラになりながら帰宅したのに、人のベッドを占領しているこの人物に無性に腹が立ち、ソファでなんて寝ていられるかとシーツへ身を投げたのだ。

「ようやく思い出したか」

メガトロン様は二週間に一度くらいの頻度でここへ来る。ただし曜日が決まっているわけでもなく、その頻度も彼の気分次第でコロコロ変わるので最近の悩みのタネになっていた。

「貴様に文句を言われるような面倒ごとは何一つ起こしていないはずだが」

それはそうだが他のみんなにばれたらなんと言われるか想像もしたくないし毎回部屋の片付けを怠らないよう気を巡らせるのも大変なのだ。

「こんな便利な場所を奴らになど知られてたまるか」

ここはメガトロン様の別荘じゃないのですがね。

「似たようなものだ。…ううむ、まだお喋りを続ける気か?この体はスリープ状態との切り替えが難しい上、起床にはまだ早い。貴様もさっさと寝てしまえ」

それにしたって寛ぎすぎである。まあいいか。これがサイドスワイプやジャズなら蹴り落としているところだがどうせ相手はメガトロン様だ。私ばかり意識しているのも悔しいので言われた通り二度寝してしまうことに決めてしまった。


・・・


眠りの海からやっと這い上がり、聞こえて来る音が携帯の着信を知らせていることに気がついたのは何秒後のことだっただろう。手でまさぐったがいつもの場所にはなく、体を起こせば時計は14時を回っている。

……えっ、14時?!

「…何をしている?」

ベッドから転げ落ちた私を憐れそうに見つめているメガトロン様は、既に音楽が止んでしまった携帯電話をちらつかせながら言った。ひったくるようにしてディスプレイを覗き込めば、ジャズから32件、オプティマスから5件、そして何故かサウンドウェーブから600件の着信が入っている。…どういうことなのこれは。

というかメガトロン様も随分長いことここにいるが、昨日のいつからNESTを抜けてきているのか。サウンドウェーブならメガトロン様の場所なんて簡単にわかるのだろうから、もしかするとその用でみんなかけてきているのかもしれない。(それにしたって多すぎである。)

さっさと帰った方が良さそうなものだが、どうやらシャワーを浴びたらしく髪が濡れていてシャツも羽織っているだけの格好だ。この部屋はもう我が物と言わんばかりである。一体どこまで自由なのだろう。しかもそんな格好でうろつかないで欲しい。

「お前の格好も大概だがな。上着は床に投げっぱなし、ボタンは上から3つも外れている。昨日、ショックウェーブのところにいたのは正解だったな。普段の外出時の格好では目も当てられん」

乱れに乱れたわたしの服を上から下まで観察しながらメガトロン様は鼻で笑った。確かに、スカートなんて履いてたら更にひどい格好だっただろう。宇宙から来たロボットに素行を正されるなんて、私も随分だらしのない女だ。ちょっとへこんでいると、また携帯が鳴り響く。これはジャズだ。

『なんで出ねえんだよ!ユズ、まさかお前メガトロンと一緒じゃねえだろうな?!あの野郎昨日から通信切ってやがるしスタースクリームの奴がお前と「一緒なんじゃねえか」とかいうから何度も鳴らしたのに出ねえし』

ジャズの大声が身体中に響き渡ってうるさい。スタースクリームめ、無駄な勘ばかり働く奴だ。とにかく、「一緒になんているわけない」と笑いをまじえて答えておいた。声音ではまだ疑っている様子だったが、今まで寝ていたことを伝えると話が逸れたので一安心する。

『最近忙しかったからな…無理するなよ。ま、メガトロンの方はこっちでやっとくから気にせずゆっくり休め。ったく、15時から偉いのが来るから今日はいろってオプティマスは一週間も前に言っといたんだぜ。このままじゃスタースクリームの奴を代わりに突き出さなきゃならなくなる。アレよりは、メガトロンの方がマシだからな』

てきとうに流すと、通話はあっさり切れた。ああ、もうたくさんだ。メガトロン様を睨みつけると、既にこちらへ興味がなくなっていたとみえてテーブルに添えてあった植物をあらゆる角度に傾け観察している。

「言われずとも、出て行ってやる。ああくだらんな。雛に餌をやっていたあの時期の方が、よっぽど有意義だったというものだ」

目にみえて怠そうに呟いてメガトロン様は部屋から出て行った。ホッとしてベッドに座り込み冷静になってから見慣れた自室を見渡すと、やっと平和になったというのにどこかものさみしい。人が一人いなくなっただけで、こうも雰囲気が変わるものなのか。

いいや、逆だ。人がひとりいたから変わったのだ。彼はあれで、この部屋にうまくはまっていたのかもしれないと、ついそんなことを考えてしまった。立ち上がって自分もシャワーを浴びに行った時に、洗濯機の上にジャケットだけが放り投げられているのを見てしまってからは、そんな気分は吹き飛んでしまったが。

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