テイクアウト
こんなことなら飲ませるんじゃなかった。と、ビーコン二名は後悔していたがそんなことを議論していても始まらない。
今は酔っ払ったユズを研究室まで引きずって行くことと、たまりに溜まった愚痴を聞き流すことで精一杯なのだ(相槌がなければ「聞いているのか」と怒りだすからたちが悪い)。
「でね、サウンドウェーブと喧嘩になって、エネルゴン反応があった土地の調査報告を渡さないで部屋に帰ったでしょ。その後どうしたと思う?サウンドウェーブってばこっちのシステムに直接アクセスしてきて、勝手に持って行こうとしたんだよ!それを阻止しようと思ってしばらく決死の攻防戦を繰り広げてたけど…負けた…」
「そうですか」
「おまけに私が研究途中だった大事なデータが綺麗さっぱり消去されててバックアップまで残ってないしせっかく頑張ったのにどうしてくれるの一体!」
「私たちに言われても」
「なに、その言い方。自分じゃなければどうでもいいわけ?」
「そういうことでは」
「はいはいわかってました、どうせ誰もわかってくれないのはわかってましたから。バカ!バカ!サウンドウェーブのバカアー!!むっつり!!大っ嫌い!!」
あのサウンドウェーブを気軽に馬鹿呼ばわりし、大声を張り上げるものだから驚いた。静かにしてくれと宥めたところで無駄である。引きずられているくせに体を頻繁に揺らすので、歩くのも一苦労だ。
だが急に、びたりと彼女が足を踏みしばったので、両側にいるビーコンもそれにつられる形となった。前方を見ると、そこには静かに佇むサウンドウェーブの姿が。確かに彼らはまさに救世主を望んでいたが、こんな形で現れるとは運が悪いとしか考えられない。
「もっ、申し訳ございません。いま静かに…」
させますから、と、そう続けるはずだった。
しかし堰を切ったように泣き出し、サウンドウェーブにしがみついたユズに意識を奪われて、その言葉は中断を余儀無くされた。
「うわあああん!サウンドウェーブ、ごめん、ごめんんんん!わたしが、私が悪かったからっ。お願い許してえええ」
先ほどまでの強気と怒りは何処へやら。天気のようにコロコロと変わる彼女の気分は、現在大雨といったところだろう。
「“でもユズ” “私のこと” “大っ嫌い!!”」
「うそ、うそっ、嘘だから!あんなの嘘だよ、だって、うっ、ぐす…サウンドウェーブは頼りになるし…正確だし私の一方的な話もなんだって…聞いてくれるし…っうまくやったらちゃんと褒めてくれるし」
「………」
「ほんと!ほんとだよ!信じてよ、もう二度としないから、サウンドウェーブの言うこと聞くようにするから!だから盗んだデータ、お願い返して…おねがいっおねがいいいい大好きだよおおおお」
自分たちが二人がかりで引っ張ってきたユズを、サウンドウェーブは玩具でも持ち歩くかのように腕にくっつけたまま背を向け立ち去って行った。
片方の手のひらで、泣きわめくユズを愛でるように優しく頭を撫でているのが見えたが、それを最後に彼らの姿は扉の向こうへ消えてしまった。
次にあった時、ユズは取り上げられたはずのデータが戻ってきたと喜んではいたが、何がどう転んだ結果なのか、そのことについては全く覚えてはいなかったのである。
(あれって、いわゆる『お持ち帰り』だよな)
(とにかく彼女には黙っておきましょう…)
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