過去拍手/27巻の話/黒崎
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――過去が戻ってくる




「…済まぬ」

ルキアの声を最後に、背後で尸魂界へ続く扉が音無く閉まった。先程までとは違い、室内には自分一人だけ。


立ち止まっている暇は無い、迷っている時間なんて無い。


無の時間が流れる中、一護は机上の写真立てを手に取った。
そこには俺の好きだった笑顔でいるあいつ。二年前の冬に天国へ旅立った、愛しい彼女の写真。


(考えないようにしていたのに、な)


出会ったは冬。そして死別したのも、冬。思い出が一番多かったのも冬。
寒さに弱い俺のシャツに手を入れたりしてあいつが喜ぶから。伝わる掌の温度が嬉しかったから。彼女が死ぬまでは、彼女同様 冬が好きだった。

あの頃、霊感が強い俺は無意識に彼女を探してしまっていた。俺の元へあの日の笑顔のままふらりと現われてくれるんじゃねえのかと。そう思っている自分に毎回自嘲したのもまた事実。それは、潔い彼女が俺に心配掛けないようにと、さっさと成仏してしまっていると分かっていたからだ。

しかし分かっていても、解りたくない。
自分がこんなにも彼女に依存していると気付いたのも彼女が死んだ後。いっそ忘れることが出来たならばと幾度となく思ったが、忘れたくないと強く願う俺が在るから。
欲しかったのは至極平凡な幸せ。未練がましい事この上ないけれど、もう一度だけあいつに合わせて欲しい、喩えそれが幻でもいいから。そんな雪よりも淡い願い――何処にも居る筈がないのに。







だから。


『任務完了よ、グリムジョー』


ウルキオラと共に、グリムジョーとの戦闘に介入してきたお前を見た時は、目を疑った。
こんな風には叶って欲しくなかった。

交わる視線。躰に鋭い痛みが走って、気付けは地面に倒れて、血の臭いがした。

空からの白い光。
強い風。
揺れるその黒髪。

垣間見える彼女の唇が微かに動いた。



『 久 し ぶ り 。』



信じられなかった。
何故何故何故。
違う、欲しいのはそんな科白じゃない。もう一度その声で俺の名を呼んでほしかった。

唯、それだけなんだ。


彼女はもうこの世にいない。会うことは叶わないんだ。そう、過去に割り切ったと思っていたのに。その動揺は、王鍵の話を聞いても動じなかった一護の心の芯までをも揺らした。
いつも手を伸ばしても虚しい空を掴むだけで。写真立てを持つ手に力が入る。
あいつをもう二度と抱き締めることは出来ないのだろうか。あの笑顔を見る事はもう無理なのだろうか。


揺らぐ心は刃を鈍らせる。

如何なる理由があるとしても、敵として、倒すべき相手として彼女と対峙しなくてはならない。今はただ、前を見るしかない。一護は未だ曖昧な決意を固めると共に、静かに写真立てを机上へ伏せた。








 混沌の中へ

  全ては墜ちて逝く








決戦は冬。

残酷にもそれは
彼女が好きだった季節。





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concept music!
Acid Black Cherry/冬の幻

27巻で突破ネタ。
歌詞引用ちょい多めですが(…)

 
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