喪失感なんてつまんない








「骸君さー、よく飽きもしないで来るよね。」

もう何回目だっけ?
白蘭はフニフニとマシュマロを弄りながら骸に問い掛ける。
するとソファーで寝ていた骸は、身体を起こして前髪を掻き上げた。




「数えてられるほど、僕は器用ではありませんよ。」

「でも何かあったでしょ。
最近はなんか快楽よりストレス発散って感じがするんだけど。」

「それはお互い様です。
貴方だって中に何回出せば気が済むんですか。」

「バレてた?」

「僕をナメてると痛い目を見ますよ。」

骸は渡されたシャツを受け取り、袖に腕を通した。
手首に付いた赤い痕は、先程の性交で握られたときに付いたもの。
どうせ数日経てば消えてしまう。
自分の体をぼんやりと眺め、そして隠すようにシャツのボタンを全てとめた。




(まったく…)

男というのは、どうにも軽い。
発散したいと思えば性別や場所を問わないし、空気も甘くなくていい。

女のように、愛なんて必要ない。
はずだった。




「それが聞いてよ。
なんかここ最近になって本当に部下が煩くてさ。
マシュマロで遊ぶなとか書類やれとか外出禁止とか…こっちは組織をまとめる大役やってるのに。
一回綱吉君と飲みに行こうかな。」

「それは良いですね。
マフィアのボスをいっぺんに二人も葬れます。」

「それは恐いなぁ。」

白蘭は遊んでいたマシュマロを骸の口に放り込む。
情事後とは思わせないほどあっさりとした空気に、それはちょうど良い甘さだった。




「………………。」

そう、
愛なんて必要ないし、求めてなかったんですよ。

マシュマロが口内から無くなると、骸は口を開けて強請る。
その姿を見た白蘭は、フフと笑ってもう一つ放り込んだ。




「やけに甘えたさんだね。」

「………………。」

「寂しい?」

ピクリと体が反応する。
だが骸はいつものように不敵に笑い、貴方は相変わらず馬鹿ですねと否定した。




「そんな乙女心は持ち合わせてません。」

「でも僕に抱かれるようになってから綺麗になったよね。」

「それはそれは、
いらない事をしてくださってありがとうございました。」

「素直じゃないなぁ。」

「甘さと素直さを求めるなら例の女のところに行ってください。」

あの令嬢なら僕より素直で可愛げがあって、さぞ甘い夜になりますよ。

骸が皮肉をこめて発言すると、不意に白蘭の手が頬に触れた。
その手つきはどうにも優しく、まるで泣いている子供を慰めるように撫でている。
骸に向けられた視線も、どこか哀れみを含んでいた。

ああもう、本当に面倒くさい。




「白蘭……。」

「ゴメンね。」

白蘭はそう呟くと、上着を取って部屋を出て行った。
そして残された骸は再びソファーに横たわる。
本当なら早く帰りたいところだが、何故か体が重くて怠かった。




「らしく、ないですね。」

謝罪なんて。
骸は天井に向かってボソリと呟く。
重いのは体か、それとも心か。
どちらにせよ面倒な感情が芽生えてしまったと、骸は後悔していた。




(わかってますよ)

僕が一番でないことも。
それでも付き合うのはこんな僕を放っておけないからということも。
全部わかってます。

貴方は優しいですからね。
きっと良い人が見つかっても、僕が縋れば慰めるのでしょう。
この平行線の関係が、交わることはないんです。




「滑稽…ですね。」

ふと、目尻が熱くなる。
油断をすれば涙が流れるかもしれない。
骸は胸にぽっかりと空いた穴を庇うように、体を丸めてソファーに身を任せた。









(ああもう、本当に鬱陶しい)







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MMD動画の骸さんを見て思い付いた話。
神曲に神ダンスで脳内がビッチパニックでした。



14,07/18
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