「ヒロさん、起きて下さい。朝ですよー?」

すぅすぅと可愛い寝息を立てる俺の愛しい人。
今日は調度二人共休みが重なり、久しぶりに朝早くから外出することになっていた。

……………なのに。

「起きて下さいってば。」

「……んぅ…五月蝿い……。」

…今、漢字で言いましたよね?
いや、そこがヒロさんらしくて好きなんですが。

「ヒロさん!……はぁ。」

揺さ振っても全然起きる気配のない恋人に、思わず溜息をついてしまう。

(でも仕方ない、か……。)

最近仕事が立て込んでいたらしく、残業も多く朝会っても早くに家を出る為、ろくに睡眠をとってないみたいだ。

睡眠をとってない事に関しては自分もであるが、華奢な彼は頑張れば頑張る程壊れてしまいそうで恐い。
だから別に寝かせておくのは構わない。

(……ただ。)

長い睫毛

薄く開いた唇

パジャマから覗く白くて綺麗な首筋

(………無防備すぎます。)

全く。
こんなだからあの教授なんかにキスされそうになるのだ。

本当に無防備で、鈍感で………。

(嗚呼、マズイ………。)

寝ているヒロさんを見て、欲情してしまった自分自身を自嘲気味に笑う。

寝ている顔も好きだけど、起きてその綺麗な瞳に俺だけを映して欲しい。

俺は桜色のぷっくりとした唇に誘われる様に口付けた。

「ん………っ。」

可愛らしい声。
もっと聞きたくて、思わず舌を捩込んでしまった。

「んんっ!?」

これまで心地好く眠っていた彼はパチリと瞼を開き、目を見開いた。

「ふ……っ、ぁ!」

「ん………。」

くちっ、という音を立てて唇を離す。

「はぁ……っ、野分、いきなり何しやがる!!?」

白い頬を紅潮させ、口許から垂れていた唾液をパジャマの袖で拭いながら問われた。

「だってヒロさんが全く起きない上に、無防備に寝てたので誘っていたのかと………。」

冗談と本気を交えてそんな事を言ったら。

「んなわけあるか!この馬鹿野分!!」

と、予想通りの台詞を言われた。

(嗚呼、ヒロさんだ………。)

少し見ない間に変わってしまったかもしれないという大袈裟な心配は杞憂に終わった様だ。

それに安心して。

「はい!ヒロさん馬鹿には自信があります!!」

と返事をし、案の定というか何と言うか、思い切り殴られてしまった。

「……ヒロさん、痛いです……。」

「知るか馬鹿!」

そう言ってぷい、と俺に背を向ける。

「照れないで下さいよ。」

「て、照れないっ!」

明らかに照れている様子に苦笑してしまう。

「じゃあ、こっち向いて下さい。」

「……………。」

ぐるっ、ぎゅっ

「!!」

絶対怒ると予想してたのに、こっちを向いたかと思ったら、抱き着かれたので、驚いてしまった。

「……えっと、ヒロさん…?」

きっと赤面してるんだろうな、と思いながらその顔を覗き込み、俺は脱力した。

「……ヒロさん、それはないでしょう……。」

愛しい愛しいお姫様はあろうことか、俺の腕の中でぐっすりと二度寝していた。

「……まぁ、そんなところも可愛くて好きなんですけど。」

お預けを食らわされ、再び溜息をつきながらも、その身体を抱きしめて優しく頭を撫でながらさっきの唇の感触を思い出す。

「……またキスしたら、怒りますか?」

キスして起きるなんて、まるで毒林檎を食べた白雪姫の様だ。

まぁ、ヒロさんに毒なんて絶対盛りませんけど。

だけど、ロマンティックで素敵だなんて言ったら。

(ガキだと怒られるから言いませんけどね。)

クスクスと笑いながら、このあとの予定を立て直すのだった。






(まぁ俺の場合、分類されるなら王子より狼の方が妥当でしょうけどね)






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冥王星のあや様に贈ります。

純情シリーズはエゴ組が一番好きです。
リゼ