かつら







ショッピングモールのフードコートには、深刻な女がいた。

「ふうん、通販のミスなんだ」

由佳は頷きながら、うどんのうえの野菜かき揚げ(大)にかじりついた。

まだ汁がしみていないから、ぱりぱりと歯ごたえが楽しい。

直美はかまたまうどんをかき回している。

「箱見た瞬間に、おや?って思ったんだけどね・・・・・・まさかだよ」

「うん」

「5、6倍のでかさだった」

「うーそーだぁー!ていうかなにそれ。そんなのあるか?」

直美は遠距離恋愛をしている。

年末年始に帰省してくるトモくん(梶原)と初詣にいく!

しかも、着物でばっちりきめていく!

と、12月の頭からあれこれ準備していたのだが、肝心のところでつまづいたのだった。

直美の髪は、ゆるめのウェーブがかかったボブで、和風の髪型のアレンジが難しい。

そこで、自分の髪をひとつに結び、そのうえからお団子の形のウィッグを装着するという作戦をたてたのだ。

ネット通販で、その部分ウィッグを取り寄せたのだが、直美の髪の色と合わなかった。

今時の若い女性には珍しく、直美の髪は真っ黒だったのだ。

団子が茶色く色浮きして、安っぽくみえた。

仕方なく、もう一度さらに黒いウィッグを別のサイトで探して注文した。

年末が迫ってくるのが早く、悠長に返品交換などしていられない。

そして、クリスマスも終わって届いたそれは・・・・・・巨大だった。

「あったんだって。あたしが注文したのは、直径10センチのお団子なのにさ。それ、30センチ近くあったんだって」

「まじか」

由佳はうどんをすするのを止めて、目を丸めた。

コシのある麺をもちもちと噛んで飲み込むと

「そんなの見たことないけどね。誰が使うんだろ」

「通販サイトで確認したらさ、韓国の宮廷ヘアらしいよ・・・・・」

「ぶーー」

由佳は次に口に入れたうどんが鼻のほうに移動してしまって苦しんだ。

直美は由佳にペーパーナプキンを差し出すと、さらにかまたまうどんをかき混ぜた。

冷めたうえに、少し泡立ってきている。

「向こうのミスだからさ、送りなおしますって言われても、もう間に合いませんから!って怒って、お金だけ返してもらったよ」

「ふが、まぁ当然だよね」

鼻をかみながら、由佳は直美の頭に目をやる。

「だから、髪バッサリ切ったんだよ。和装で中途半端はダサいじゃん」

今の直美はベリーショートだと言ってもいい。

「まぁ、確かにそうだよね・・・・・・すんっ・・・・・・似合うよ」

「なのにさ、トモくん、最悪だよ」

「仕方ないよ、インフルだったんでしょ?」

「うん・・・・・・」

年末の直美の努力は、トモくんがインフルエンザにかかってしまった事による帰省とりやめで、すべて無駄になってしまった。

「来年までに髪伸ばしな?自前の髪でお団子結えばいいよ」

由佳は自分の皿からお稲荷さんを1個、直美のどんぶりに入れてやった。

「ありがとぉーーー」

直美はかき混ぜるのをやめて、お稲荷さんに食いついた。

「しかしさ、韓国の宮廷ウィッグって、誰が使うんだろうね?」

由佳は首をひねる。

「かくし芸とかじゃない?」

直美は一気にうどんを平らげ、水を飲んだ。




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