時計屋






あるところに、嘘を絶対についてはいけない国がありました。

人は、正直に生きるべきだと、愛に満ちた王様が決めたのです。

でも、人びとはささいな嘘もつかないでいることに、疲れてしまいました。

そこで王様は、1年で1日だけ嘘をついてもいい日を作りました。

その日だけは、どんな嘘をついてもいいのです。

人びとは喜び、お祭りになりました。

恋人に内緒でプレゼントをして驚かせる人。

親に、暮らしは成功していると言って、いつもより多く仕送りする人。

病気で死にそうな人に、きっと治りますよと励ます人。

国じゅうが、優しい嘘でいっぱいになりました。

ところが、ひとりの男がほかの人とは違う嘘をついていました。

町の時計屋です。

時計屋は、町中の時計の時間を狂わせていきました。

なんと、驚くことに、お城の時計までもです!

そして、人びとが怖がるような嘘を大きな声で言って歩きました。

今度の週末に、爆弾が降ってくるんだって。

いや、もう国の一番はじっこの島に落ちたんだってよ?

怖い病気が流行っているんだって。

うつったら、かならず死んでしまうらしいよ?

時計屋はおもしろがって、どんどん悪い嘘をつきました。

この国の王子様は、本当は王様の子じゃないんだよ。

お妃様と家来の間に生まれた子供なんだよ。

もうすぐ、世界恐慌がおきるんだ。

お金が紙くず同然になっちゃうよ。

王様は、これを聞くとかんかんに怒りましたが、自分で作った決まりごとなので、我慢しました。

そして、1日が終わりに近づきました。

時計屋は、最後にもうひとつ、大きな嘘がつきたいと思いました。

時間ギリギリまで、知恵をしぼって考えました。

そのとき、時計屋のおかみさんが言いました。

「アンタ、教会の時計の修理は終わったのかい?」

「ああ、そんなの、とっくに終わってるさ」

すると、突然兵隊がやってきて、時計屋は捕らえられてしまいました。

「今日は、嘘をついてもいい日じゃないか!何故捕まえるんだ。放せ!」

「もう、日が変わったんだ」

「嘘だ!俺の時計はまだだ!時計屋の時計が!」

「アンタ、どうしよう…いたずらで、アンタの時計を5分遅らせてしまったよ…」

時計屋は、嘘をついても良い日を過ぎてから嘘をついたので、お城で処刑されてしまいました。

それから、馬鹿な嘘をついた時計屋にちなんで、年に一度のこの日を四月馬鹿と呼ぶようになりました。




おしまい♪


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あきゅろす。
リゼ