一寸の狂いもない
美しい容姿をしている彼には花が似合う。特に真っ赤な薔薇が。
「今日までずっと燻り続けて来たが、それももう終わりだ」
倒壊した建物の遥か遠くに咲き誇る花々の中で、私は永遠の眠りにつくのだろう。
カミサマの気まぐれで今まで生かされ、彼等の衣食住を支えてきたが、それはもう必要のないことらしい。
元々人間嫌いだった彼等はずっとこの日を待ち遠しにしてきたのかもしれない。人間0計画とやらにまた近付けるのだから。
「今更命乞いをするつもりはありません。苦しい思いはしたくありませんが…」
「……」
優しい花々の香り。
嗚呼、天国にもこんな花畑はあるのだろうか。小鳥は囀っているだろうか。
考えても仕方がない。もうすぐその場に行けるのだから_
「……」
「ブラック……さん?」
然し、いつまで経っても彼は動こうとしなかった。そればかりか苦しげな表情さえも浮かべている。
「貴様は勘違いをしている様だ。燻り続けたと言っただろう。殺すつもりなら出会い頭に始末している」
つまりはどういう意味だ。
殺すつもりがないなら何が燻り続けたというのだ。
「えっと…」
「人間の身体を借りてからどうも調子が狂う。唯の言い訳に聞こえるかもしれないが、神だった時は恋慕の感情なんて起きる筈が無かった」
「……?」
「察しの悪いやつだ。そんな鈍感な娘だからこそ惹かれたのだがな」
彼の言っている意味がよく分からない。否、言葉の意味は理解出来るのだが何故彼が私を…?
「まぁ、少し騙された感覚で居ればいい。そのうち分かる。その心にも身体にも…一寸の狂いもない愛が…な」
「あっ……」
胸を突き刺すだろうと思っていた彼の右手には赤い薔薇が鎮座している。
赤い薔薇の花言葉は『貴方を愛しています』
そんな情熱のある花と気高い彼が視界に包まれる中、初めて受けた抱擁は暖かなものであった_
(素直に好きって言ってくれれば良かったのに…)
(それが出来れば、苦労はしないだろうな…)
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