裏切りのユダに告ぐ
※ネタバレ注意
――カシャーン。
暗い場所で、甲高い音が木霊する。
目の高さに持ち上げられた綺麗な硝子細工が一瞬動きを止め、手を離れ落下した。
――カシャーン。
床に破片の華が咲く。繊細な硝子細工は砕け散っても、煌めきの片鱗を残していた。
空っぽだと思っていた私にも、いつの間にかこんなにたくさん大切なものができていたんだ。
その大切なものが誰かの手によって次々と壊されていく。止めなければいけないと思うのに、私は指一本動かせずにただ呆然とその光景を見ているしか出来なかった。
――カシャーン。
やめて、やめて。
暗い中で反響する音に、耳を塞ぎたくなる。だがそんな抵抗を嘲笑うかのように淡々と行為は繰り返された。
きらきらと砕け、原型を失っていく姿は声にならない私の悲鳴のようだ。
辺り一面が大切だったモノの死骸で埋まっていく。いくら美しくとも一度壊れてしまえばただのガラクタ。
取り返しがつかない。取り戻すことなどできはしない。
ゆっくりと染みるような絶望感が私を浸食していく。
あらかた壊し終わった“ソイツ”は最後に一番奥にある硝子細工を手に取った。
掛けられていたビロードを取り去ると、現れたのはひと際美しい輝き。
見せつけるように、私の目の高さへ。
骸様、骸様。
絶望の淵から救くいあげてくれるのはいつだって、貴方との絆だった。
呼ぶのは、求めるのは。
貴方との繋がりは光明の糸。
――いいえ、君の内臓は…
痺れた脳内に忌まわしい声が這う。
そうか そうだった
わたしのないぞうは
わたしのなかにむくろさまは
むくろさまは どこにもいないんだ。
するり。
手を離れスローモーションで落ちていく様がゆっくりと網膜に焼きつく。
美しく悲しい旋律を奏で、私にとって一番大切なものが、粉々になった。
「この身と六道骸をD様に捧げます」
残骸の中に佇むのは最初から一人。
大切なものを壊してしまったのは、
取り返しのつかないことをしてしまったのは、
破片に映った、昏い目をした私だった。
裏切りのユダに告ぐ
もう、戻れない。
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不本意なことを言わせられたクロームの心情を思うと、今すぐD氏を殴りに行きたくなります←
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