ドアノブと3年。
ガチャッ…  ガチャガチャッッ…!


「またか…。こっちは忙しいってのにっ…。」




今日も、昨日も。 ていうか2年前に私が女子テニス部に入った時からだ。


なぜか、女子テニス部の部室のドアだけ開けにくい。

錆ついてて、鍵も回しにくい。


そして部室は各部活ごとに連なっていて、通路が狭くて長い。

その為、大量のテニスボールが入ったカゴを置いてドア開けに専念していたら、他の部活の邪魔になってしまう。サッカー部に至っては舌打ちをされてしまう。

当時、舌打ちによってトラウマをもってしまった私は部活をサボるようになった。
でも、あるキッカケで毎日、部活を通いつづける事になったのだ。





「今日も雑用頑張ってんなー。アイツー。」



「いつもドア開けんのに必死になっとるのー。」





部室に戻る、男子テニス部のレギュラーがここを通る時間が、私にとっての至福の時間。
これが私が部活をする理由。


あぁやって、私を見ては「頑張ってる」って言ってくれる人は、レギュラー陣か顧問だけ。
そして最高なのが…


「わりぃ、ちょっと通るぜぃ。」

「あ、うん。ごめんね。」


トンッ…


こうやって、通る時に相手に触れ合うトコロだ。やばい、発狂しそう。


そんな下心がつい、顔に出てしまう。



「…お前さん、通る時いつも顔ニヤけてるのぅ。」

「なっ、そんなこと、ない、から。」


仁王君が至近距離で話しかけてくる。薄い唇が二っと歪んだ。

あぁ、ヤバい。仁王君の色気がぞくぞく伝わってくる。
さっきの丸井君の甘い香りが、一瞬で仁王君の色気によって消された。恐るべき詐欺師。


「におー、困ってんじゃねぇか。早く来いよー。」


「おっと、ここまでか。またな。」

ポンポン

これは稀だが、仁王君は機嫌がいいと頭をポンポンしてくれる癖がある。
ちなみに、これで7回目だ。



大体あの二人が通った後は…



「仁王君!あなたっ、タオル忘れてますよっ!」

柳生君と

「オイ!ブン太っ!全部を俺に任せるなよっ!」

ジャッカル君だ。


「あっ!すみません!通ってもよろしいでしょうか?」


「ご、ごめんなさい。…っと、どうぞ。」


「毎回毎回、申し訳ありません。と、頬に泥がついてますよ。」


そういってハンカチをポケットから出して頬の汚れを取ってくれる
そして、またもや至近距離。彼の紳士的行動は時に心臓に悪い。


「あっ、あのもう、大丈夫ですかっ?」


「え?あ、あぁ取れましたよ。あぁ!ジャッカル君すみません、先に君を通しておけば…。」

「いや、気にしてねぇよ。それより、お前また雑用か。…お互い頑張ろうぜ。」

フっと苦笑いをしたジャッカル君は、本当の苦労人なんだなと、改めて思った。


ドドドドドド…。


「あっ。」


この足音は…。大体予想がつく。


「ひぃぃ〜っ!ちょ、アンタ!早くどいて!」


赤也君だ。きっと真田先輩にでも追いかけられてるんだろう…。

私は通路入口にササっとかまえる。赤也君と真田先輩の事に巻き込まれるなんて恐怖でならない。


スッ

「毎回、わりぃな!サンキューッ!」

二カっと笑ってすんごい速さで部室通路を駆け抜ける。そして埃が舞う


ゴホゴホッ


「待たんかぁぁぁぁぁぁああああっ!!赤也ぁぁぁぁああああ!」



すんごい形相で赤也君を追いかける真田先輩は私に見向きもしない。

そして、赤也君の倍以上に埃が舞う。


「うっ、ゴホゴホッ。」


「悪いな、森山。大丈夫か。」


「やっ、柳君、ゴホゴホッ。」


「助けて、とお前はいう。どうだ、楽になったか。」


優しく背中をさすってくれる柳君。柳君とは2年の頃に同じクラスになってから、優しくしてもらってる。

…きっと彼の事だ。埃が舞っていようが雑用をやめない理由など、とうに知れているだろう。


「…もうそろそろだな。じゃあな。」


「うん…。ありがとう。」


柳君が通り過ぎる、それはあの人が近づいている証拠。



ドキン…ドキン…。


やばい緊張してきた…。って、早くドア開けなきゃ。



ガチャッガチャガチャッ…


「…頑固なドアだなぁ…。」


そういえば、今何時なんだろう。さっきミーティングを終えてから何分経ったんだろう。

ここにいると、私のなかの時間は止まったままだ。

この回らないドアノブが、なによりも証拠。私のなかの時計の針も回らずに止まっているようだ。



「もう…。」




私は、いつまでも開かないドアにため息を漏らした



その瞬間だった。






背後から、優しい花の香りがふわっと溢れてきて肩からは蒼い髪の毛が揺れている。
ドアノブに伸ばしたしなやかな腕には、黒のリストバンド。男の子のような手とは思えないほど繊細な指。


これは、もしかして。もしかしなくても…。



「フフ…、また開かないのかい?」


背後から聞こえる優しい声、王者立海大男子テニス部の部長とは思えないほどの中性的な顔立ち。


「っ、幸村君。」


私の顔に熱が集まっていくのが分かる。あぁ、ばれちゃうよ。

私が、この三年間。想いをよせていた人物だ。このドアと戦ってる最中に、必ず幸村君は助けてくれる。



「このドアは君にだけ頑固だよね。」


「え?」


「だって、ほら。」


カチャリ…



「結構、簡単に開くんだもん。」


きっとそれは、幸村君の驚異的な力だからなのでは…と言いたかったけれど

黙っておくことにした。




「だから、てっきり演技だと思ったよ。」




「っ!そ、それは違うっ…。」




「そんなに否定されるのも…ちょっとなぁ。フフッ、自惚れたかったなぁ。」


「えっ…。」



コレは聞き間違いなのかもしれない。けれど確かにちゃんと聞こえた。





《自惚れたかったなぁ》



…時間がゆっくり動いた瞬間だった。




「さぁ、仕事は終わったかい?」


「う、ん。ありがとう。じ、じゃあっ…」

パシッ


早く、この状況から抜け出したかった。のに、幸村君に手をひかれた。



「ちょっと待って。」


「へっ…!?」


「一緒に、帰ろうよ。」


「……えええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!??」





な、なに言ってるんだろう。これはきっと夢?でも、掴まれている腕の温度が高くなってるのがわかる。





「じゃあ、門の前で待っててね。」


「ちょ、でもっ」


「友達と帰るんだったら、断っておいてほしい。ダメかな?」



至近距離で、そんな事言われたら。



「はいぃ…。」


はい、しかいえないでしょう。


END






















「ごめん!用事できたから先帰ってて!うん、ごめん!」







「彼女、喜んでるな。良かったな精市。」


「クスッ…。もっと早くから誘っとけば良かったなぁ。ていうか、演技じゃなかったんだね…。」


「…まぁ、女子だからな。」


「そうだねっ…と、そろそろ俺はいくね。じゃ。」


「あぁ、また明日。」






























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