いつもと違う夜は中々眠れない

「絶対にそれは駄目です!」


「それはコッチの台詞だるんちゃんよぉ」


家に帰り、途中コンビニて買った弁当を食い、片付けて風呂に入り、そして口論。
俺が睨んでもるんは一歩も引かねぇ。


「ベッドは静雄が使うべきだ!」


「女をソファで寝かせるほど俺だって馬鹿じゃねぇ」


「居候なんだから、いんだよソファで」


「いや、駄目だ。ベッドで寝ろ」


「大体なんで客間 (てか使ってない部屋) はあるのに布団ないんだよ!」


「あぁ、たまに幽が来るから客間はあるんだがよ。そんときは俺がソファで寝てんだ。だからお前はベッドで寝ろ」


「………仕方ないなぁ…」


最後までブツブツ行ってやがったが、るんは折れてくれた。


「じゃ、おやすみ静雄」


「あ、あぁ、おやすみ」










♂♀











──君、いつも怪我してるよね?

──はい、牛乳。


優しい、あのパン屋のお姉さんの笑顔は、一瞬で悪夢に変わった。お姉さんは、破壊し尽くされた店内で、瓦礫の下に倒れている。


ちがう。オレは、こんなことがしたかったんじゃない。
ちがう。ちがうんだ…。


──平和島静雄には、近付かないほうがいいよ。

──アイツに殺されかけた…!!!

──"化物"だろ。


ちがう。痛い。痛い。

身体が、

心が、

痛い。

痛いよぉ…──










♂♀











「───…ッ!!!!」


……あ?
…なんだ…、夢…。
夢か…。

まったく、久し振りに嫌な夢を見…た…?


「……………」


「……………」


「……………」


「おはよ」


「……何してんだぁ?
るんちゃんはよぉ…?」


目を開ければ、馬乗りになって俺の顔を覗き込むるんと目が合った。


「よ、夜這い」


視線逸らすな、目が泳いでんぞ。


「嘘吐くな。右手の油性ペンはなんだよ、あ゛ぁ?」


「う…、まだ書いてないもんっ!」


本気で書くつもりだったのか。


「つーか、こんな夜中に何してんだぁ?」


開いたカーテンの隙間から見える窓の外は真っ暗で、テーブルに置いてある携帯に手を伸ばしてディスプレイを見ればまだ午前三時過ぎ。起きるにはまだ早ぇ。


「…だから、夜這いだってば!」


「ガキが。夜這いの意味知ってんのか?」


「高校2年生だもんっ! 16歳だもんっ! 大人だもんっ! 結婚できるもんっ! 夜這いの意味くらい知ってるもんっ!」


頬を膨らませて怒るるんはどう考えても大人には見えねぇ。

…いや、一ヵ所だけ。

パジャマの替わりに俺が貸したパーカーを、身長差もありワンピースの様に着ているるんの白い太腿がちらついてんのがたまんない。
結構やべぇ。


「…静雄?」


「!!……な、なんだ?」


急にかけられた声で引き戻された。
つい、まじまじと見てしまっていた自分が、なんか悲しくなった…。


「…大丈夫? やっぱり夢、怖かった?」


るんは相変わらず俺の身体の上に乗ったまま、そう言った。


「…夢?」


問うと、うなされてたから、と。


「別に、怖くはねぇよ」


むしろ、るんの方こそ俺が怖くないのか疑問になった。
だが、コイツは俺の"力"を知らない。なら、騙しているようではあるが黙っていたい。


「大丈夫だよ、俺がいるから」


「……?」


「俺は、静雄を怖がったりしないから」


「…は?」


何言ってんだコイツ…。
まさか、知ってんのか?


「オイるんッ…、
って何してんだぁ!!」


人がシリアスモードに入ってんのに、コイツは俺の布団にゴソゴソと入ってきた。


「いやあ、寒くて。
だからほら、一緒に寝てあげるよ」


もう寂しくないよ〜、なんて言ってるが、寂しいのはるんの方じゃねぇのかよ!


「出 て け」


るんの襟首を掴んで俺から剥す。
ぶら〜ん、とか言って楽しそうにしてんのが腹立つなオイ。


「…あ!! やだやだ、ちょっ、パンツ見えるっ!」


るんは ハッ!とした様にパーカーの裾を引っ張る。急に暴れたからなんだと思えば。

あー、そうか、パーカー一枚だったな、コイツ。


「安心しろ誰も見ねぇ」


「静雄が居るから!…それとも何か、それは俺に色気が無いって言いたいのかっ」


「うるせぇ、向こうで寝ろ」


「死んじゃう。寂しくて死んじゃう」


「今、俺に殺されるのとどっちが良い?」


「静雄!静雄に殺されるなら本望だ!!」


「………馬鹿」


やたら賑やかになったが…、まぁこんな生活も悪くねぇな。







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リゼ