Ver.セルティ
池袋の夕暮れの中を歩いていたパジャマ姿の少女。もしかしたら怪我でもしているのか、もしかしたら街のごろつきに監禁されていたところを逃げ出したのかもしれない。
…なるべくなら目立つ真似はしたくないが…、人命がかかってるなら仕方ないか。
セルティはそう思いながら女の様子をみた。
──そして、その場に凍り付く事となる。
首が、私の顔が──あの少女の首の上に!!!
気が付いた時には駆け出して、フラフラと歩く女の手を掴み、勢いよくこちらに振り向かせていた。
途端に、女は狂ったような声を上げてセルティの手を振りほどこうとする。
パジャマ女と黒ライダーに周囲の目が注がれるが、セルティは興奮していてそれに気付いていない。
この状況ではPDAをだす事も出来ない。
「あー、落ち着いてください。俺達は別に怪しいもんじゃないから」
静雄が助け船を出そうとして近付き、少女を落ち着かせようと肩に手を置こうとしたのだが、
──ドスリ──
刹那、彼の腰に衝撃が走った。臀部の下、太腿の辺りに何か強い違和感を感じ、冷たさと熱さが同時にズボンの奥に侵入してきた。
振り返ると、そこにはブレザーを着た青年が立っており、身を屈めながら俺の太腿に何かを突き立てている。
それは何処にでも売ってるような事務用のボールペンだった。
見ると青年の鞄が半分開いており、どうやら自分のペンを取り出して静雄の腿に突き刺したようだ。
「あぁ……?」
「彼女を離せ!」
青年の叫びにセルティもそちらを向いて──突然の流血沙汰に気付き、思わず動きを止めた。
その隙をついて、パジャマ女はセルティの手を振り解き、路地の奥へと走って逃げ出してしまった。
──後を追うべきか、…いや、静雄が!
背後を振り替えれば、足にボールペンを二本突き立てられた静雄がいて、その後ろではブレザーを着た青年が三本目のボールペンを取り出していた。青年は三本目のボールペンを構えると、パジャマ姿の女が走って行った方向を見た。
そして、
「良かった……」
と呟いた。
なにが良かったんだ、と詰め寄ろうとしたセルティに、静雄が勢いよく手を突き出した。
手のひらがヘルメットの寸前でビシリと止まり、何事も無かったかの様な笑顔で呟いた。
「あ、俺は大丈夫だから。酒のせいであんま痛み感じない。だからいいよ、行って。良く解らないけどさ、おっかけなきゃヤバイんだろ?」
そして、サングラスを胸ポケットにしまいながら自分の頬をピシャリと叩いた。
「ハッハぁ、一度言ってみたかったんだ。『ここは俺にまかせて先に行け』ってよ」
──ソレって、"死亡フラグ"立つ台詞だろ…。
軽くツッコミつつ、セルティは学生を心配した。
それでも静雄に甘えることにして、両手をパシリと合わせて一礼すると、女を追うために黒バイクに跨がった。
野次馬を掻き分ける様に、夜の街に高く高く嘶きを響かせて────
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